多すぎるので減らすというなら歯科医院やコンビニ、個人的には「歩きスマホ」を強制的になくしてほしいものだが、なぜか地銀ばかりが槍玉に挙げられる。政権交代の総裁選でのちの新首相が唐突に切り出し、その知人が呼応。淡々と進んできた地銀再編に奇妙な光が当たり、いまや金融庁・日銀まで再編支援に本腰を入れる事態に発展している。地域金融機関の再編は、不要不急にあらずなのか。
日銀は11月、経営統合や経費削減条件に地銀や信用金庫が日銀に預けている当座預金の金利を年0.1%上乗せする。2023年3月までの時限措置で、経費を業務粗利益で割った数値が4%改善すること、あるいは経営統合する場合に限る。一方、金融庁は11月中に開催する金融審議会で、統合に必要なシステム構築費用などに充てる補助金を出す「資金交付制度」の創設の道筋をつける。加えて統合に必要な規制緩和策も盛り込むと見られている。
日銀・金融庁の支援策とは別に、公正取引委員会は独占禁止法の特例措置として県内地銀の合併容認を打ち出している。前政権のキャッチコピーではないが日銀、金融庁、そして公取委と「3本の矢」を放って、オーバーバンキング解消を成し遂げるつもりらしい。
県内地銀の合併容認はともかく、日銀や金融庁が進める資金支援制度で地域金融機関の健全化は必ずしも進まない。合併再編は苦しい経営状況から脱出するための方策だ。それ(経営統合)を選択すれば、苦戦していると白状するようなもの。市場もそう判断する。システムを一本化して経費を削減すれば済む話ではない。経費を削って改善すれば、そこで働く人の気持ちは荒み、人心は離れる。そうすれば顧客に対するサービス低下を生む。
そもそも、地域金融機関の数を少なくすれば、どんな金融環境が生まれるのかという絵図がない。それがいま進められている再編の問題点だ。国や日銀は、疲弊している地域金融機関に一定数の中小零細企業が取引先として存在し、彼らの資金調達ルートが絶たれれば企業倒産が相次いで地域がさらに疲弊することを恐れている。だから、早めにその懸念を払拭したい。信用金庫を含む地域金融機関再編の狙いはそこにある。
しかし、経営統合すればそうした企業に対して潤沢に資金供給できるかと言えば、そうはいかない。銀行が統合しても地方経済がよくなる保証はない。統合したことでより一層のシビアな融資審査になることが考えられる。合併したからには、さらに健全経営しろと言われれば、蛇口を締めるほかない。無理に合併などさせなくても、自然淘汰するに任せればよい。そして万が一の地域金融機関のデフォルトの際に地域の企業に対して特段の配慮を実施すればよい。そう考えると、地方企業の救済のほうが、銀行救済に比べて高くつくから、合併再編を選んだと取れなくもない。
狙いはシステム構築と資金運用での手間賃
地銀再編の舞台に、SBIホールディングスの総帥・北尾吉孝CEOが満を持して登場する。北尾氏は昨年来「第4のメガバンク」を標榜し、今年4月に「SBI地銀ホールディングス」という受け皿を設立して10行を限度に地銀呼び込みを始めた。第二地銀の島根銀行と資本業務提携したのを皮切りに、福島銀行、筑邦銀行、清水銀行、東和銀行と矢継ぎ早に提携を結んだ。きらやか銀行と仙台銀を傘下に持つじもとホールディングスとも業務提携を結ぶ方針で、地銀・第二地銀7行との間で金融業界における新たな版図を形成しようとしている。提携先銀行の株式はSBI地銀ホールディングスに移管している。第4のメガバンクは大げさに過ぎるが、北尾帝国の準備は整った。
氏の狙いは明快だ。地銀が苦手としている仕事を手伝い、その手間賃を得ることにある。莫大な維持・更新費用に苦慮している基幹系システムのコスト削減策と、資金運用能力の改善である。SBIが使用しているシステムを導入してもらい、資金の運用を受託する。証券会社として出発しているSBIにとって資金運用は本業である。さらに、国策である「地方創生」を活用して地域に投資する企業を飛び込む腹積もりだが、こちらは即効性のあるビジネスではなく、先を見越した事業と考えている。
しかし、SBIグループがこれまで提携したのは、第二地銀38行中9位の東和銀行を除けば、ほとんどが業界の下位行だ。言葉は悪いが、これ以上経営状況が改善できる見通しが低いところばかりで、ひとつ手を打てば改善できるのは当然。相場用語で言えば「底入れ」しているのだから。浮上するのは自明である。
国が再編を選択する地域金融機関の支援を決めたことで、SBIと提携した地銀・第二地銀が支援を申請すればどうなるのか。提携先の地域金融機関が金融持株会社のSBI地銀ホールディングスの傘下に入ることを再編と解釈すれば、国が再編のために拠出するシステム構築資金は、そっくりそのままSBIの財布に入ることになる。
SBIの提携先銀行は、県内合併の可能性が低い銀行である。国が剛腕を発揮すれば、それぞれの県の有力地銀との合併もあり得るが、可能性は極めて低い。そうした状況を全て見通したうえで、北尾氏はさらに3行ほど声がけしていく。新首相との親密関係を利用しながら、保有する提携先銀行の株式の価値を高め、システム構築と資金運用で得る手数料を増やして収益を極大化させる。新たな地銀ビジネスの始まりである。
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平木恭一(ひらき・きょういち)
明治大学文学部卒。経済ジャーナリスト。元金融業界紙編集長、金融業界の取材歴30年。週刊誌や経済専門誌に執筆多数。主な著書に『図解入門業界研究 金融業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(秀和システム社)、『図解入門業界研究 小売業界の動向とカラクリがよ〜くわかる本』(同)など。