令和6(2024)年度上期(4~9月)に、国内で承認された新有効成分含有医薬品(NME: New Molecular Entity)25品目だった。今回は製造販売元が外資系企業である13品目のうち、中枢神経系(認知症、てんかん)、糖尿病、感染症などの領域の7品目を紹介する。

 

認知症:“悪玉アミロイドβ”の最新研究も


 中枢神経系(CNS)領域では、認知症の進行抑制薬および抗てんかん薬、各1品目が承認された〈表1〉


ケサンラ kisunla/ドナネマブ Donanemab、日本イーライリリー】ドナネマブは、ヒト化抗N3pG Aβモノクローナル抗体製剤。N末端第3残基がピログルタミル化されたアミロイドβである「N3pG Aβ」は脳のアミロイドβ(Aβ)プラークのみに存在し、他のAβ分子種よりも凝集しやすく、神経毒性が強いとされる。


 効能・効果は、「疾患の進行を完全に停止、又は疾患を治癒させるものではない」との理由から、レカネマブ(レケンビ、エーザイ)と同じく、「アルツハイマー病(AD)による軽度認知障害及び軽度の認知症の進行抑制」。


 ADでは、凝集性の高いAβの産生が増加し、❶モノマー→❷可溶性Aβ凝集体(オリゴマー、プロトフィブリル)→❸不溶性のフィブリルを経て→❹Aβプラーク(アミロイド斑、老人斑)が形成され沈着する。「プラークの主成分であるAβタンパク質の沈着がADの原因物質であり、この沈着の直接的な結果として神経原線維変化、細胞喪失、血管損傷、認知症が起こる」とする「アミロイドカスケード仮説」〔Higgins et al. Science. 1992;256(5054):184-5.〕が広く支持され、薬剤開発の方向性に大きな影響を与えてきた。この病態生理学的変化は、臨床的にADと認識される10~20年以上前に始まるとされる。


 標的はレケンビが❷であるのに対し、ドナネマブは❹の不溶性Aβプラークで、その除去による「ADの病態進行の抑制」と「臨床症状の悪化抑制」を期待して開発。N3pG Aβ」に選択的に結合し、ミクログリアによる貪食作用を介して、不溶性Aβプラークの除去を促進すると考えられる。


 ドナネマブは、「承認を受けた診断方法(アミロイドPET、脳脊髄液検査または同等の診断法)によりAβ病理を示唆する所見が確認され、ADと診断された患者」のみに投与。「無症候でAβ病理を示唆する所見のみ確認できた者」「中等度以降のADによる認知症患者」には投与しない。投与中にAβプラーク除去が確認された時点で投与完了。確認されない場合も原則として最長18ヵ月で完了する。承認時のプレスリリースで同社は、「ケサンラの投与終了により、当時者および介護者の身体的、精神的な負担を軽減することが期待される」としている。

 

【関連情報:アミロイドβタンパク質の分子種・病態】アミロイドは、本来正常に機能していたタンパク質に異常が生じ、水や血液に溶けにくい線維状の構造になったもの。Aβは40アミノ酸程度のペプチドでβシート構造をとる。アミロイドの名付け親はドイツの病理学者Virchowで、1854年に臓器に沈着する奇妙な物質がデンプンに似た性質を示すことからamyloid(類澱粉質)と命名。タンパク質であることが分かって以降も用語が残った。


 Aβとして、主な分子種であるAβ40(40アミノ酸、最C末端バリンVal)、Aβ42(42アミノ酸、同アラニンAla)に加えてAβ43(43アミノ酸、同グルタミン酸Glu)が知られている。Aβ42はin vitroで凝集性が高くAD患者脳では初期から優位に蓄積すること、Aβ43はさらに凝集性が高くAD患者脳でも蓄積していることが示され、最C末端長の違いが生理的条件下でのAβの凝集性を変化させる要因と考えられている。


 これに加え、産生後に生じる最N末端の部分分解とピログルタミル化も非常に疎水性が上がるため重要と考えられている。AD患者脳で蓄積している主要なAβは、最N末端から3番目のGluがピログルタミル化し、最C末端が42番目のAlaで終わっている分子種(つまりN3pG Aβ)と想定されている〔富田泰輔 アミロイドβタンパク質 脳科学辞典〕。


 なお、24年10月、理化学研究所と長崎大学は「アミロイドベータの悪玉化機構を解明」とする研究結果を発表。研究者らは、N末端がアスパラギン酸Asp-アラニンAla-グルタミン酸Gluで始まる産生直後のAβを「生理的Aβ」、AspとAlaが切断され、Gluが脱水縮合し環化された(環状構造に変換された)Aβ、つまりドナネマブの標的である「N3pG Aβ」「ピログルAβ」さらには「悪玉Aβ」と呼び、「ピログルAβの自己凝集能力は生理的Aβの250倍ほど」としている。

 

てんかん:部分発作の新薬は8年ぶり


【ブリィビアクト静注 BRIVIACT/ブリーバラセタム Brivaracetam、ユーシービージャパン】ブリーバラセタム(BRV)は、脳内のシナプス小胞タンパク質2A(SV2A:synaptic vesicle glycoprotein 2A)に高い親和性を示して選択的に結合し、てんかん発作を抑制する抗てんかん薬。


 効能・効果は、(成人の)「てんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)」。BRVには静注用製剤があり、一時的に経口投与できない患者において経口製剤の代替療法として用いる。


 てんかんは、種々の原因(遺伝、外因)により起きる慢性の脳の病気で、自発性かつ反復性の「てんかん発作」を主徴とする疾患・症候群。罹患率は人口の約1%とされる。発作は、最初から脳全体に及ぶ「全般発作」と、異常波や発作症状も脳の一定部位から始まる「部分発作」に大別される。後者はさらに、意識減損を伴わない「単純部分発作」、意識減損を伴う「複雑発作」、単純部分発作か複雑部分発作から、または単純部分発作から複雑部分発作を経て移行する「二次性全般化発作」に分類される。


 SV2Aは1985年に発見された、742アミノ酸から成る膜タンパク質。機能解析が進み、シナプス小胞体輸送(神経終末にある直径40nm程度のシナプス小胞が、他の細胞小器官と相互作用しタンパク質や分子を運ぶ輸送機構)に加え、活動電位依存的なシナプス開口分泌(シナプス小胞からの神経伝達物質放出)を促進的に調節することが明らかになってきた〔日薬理誌. 2018; 152:275-180.〕。


 成人における新規発症の部分てんかん(部分発作)の第一選択薬として、カルバマゼピン、ラモトリギン、レベチラセタム(LEV、イーケプラ/ユーシービージャパンほか)、次いでゾニサミド、トピラマートが推奨されてきた(日本神経学会「てんかん診療ガイドライン2018」)。このうちLEVのみが、BRVと同じくSV2Aに結合して働く。


 BRVは、成人てんかん患者における「他の抗てんかん薬で十分な効果が認められないてんかん患者の部分発作(二次性全般化発作を含む)に対する抗てんかん薬との併用療法」に対する適応を取得することを目標として、2008 年2 月より国内での開発を開始した。承認時(6/24)および発売時(8/30)の同社プレスリリースでは、「部分発作を適応とする抗てんかん剤として国内 8 年ぶりの新薬」「初期用量から臨床効果が期待できる用量で投与可能な新世代抗てんかん剤(単剤もしくは併用での使用が可能)」「日本を含むアジア地域における第Ⅲ相試験の結果に基づく承認」を謳っている。


 同社によるピーク時(10年度)の予測本剤投与患者数は4.8万人、予測販売金額は178億円(薬価算定時資料)。