糖尿病:週1回投与のインスリン製剤が登場


 糖尿病領域では、世界初となる週1回投与のインスリン製剤1品目が承認された〈表2〉


アウィクリ Awiqli/インスリン イコデク Insulin Icodec、ノボ ノルディスクファーマ】インスリン イコデクは、週1回皮下投与のBasal(基礎)インスリン製剤(遺伝子組換えヒトインスリンアナログ)。内因性インスリンは21アミノ酸残基のA鎖と、30アミノ酸残基のB鎖で構成されるのに対し、同剤のB鎖は29アミノ酸残基から成る。


 効能・効果は、「インスリン療法が適応となる糖尿病」。


 同剤は、❶強力かつ可逆的なアルブミン(Alb)結合能、❷低いインスリン受容体結合能(受容体を介したクリアランスの低下)、❸酵素による分解を最小限にすることで得られる高い分子安定性、❹溶解性という4つの特性を持つ。


❶は親水性リンカーを介して、B鎖29位のリジンに炭素数20の脂肪酸(イコサン二酸)を結合させたことによる。「脂肪酸側鎖の付加」は持効型インスリンアナログ開発の一手段として20年ほど前から使われてきた。脂肪酸側鎖をインスリンなどのペプチドホルモンに付加すると、Albとの可逆的な結合が促進され、分子量が増大。組織拡散が遅くなり、腎排泄が阻害されることで半減期が延長する。


❷❸❹はヒトインスリンに4つのアミノ酸修飾〔B鎖30位(C末端)のスレオニン除去、A鎖1ヵ所・B鎖2ヵ所のアミノ酸置換〕を行うことで実現した。ヒトインスリンと比較して溶解性が高いことから、週1回であっても一度に投与する液量は、1日1回投与のBasal インスリンと同程度である〔新薬と臨床. 2023; 915-921. 〕。


 同剤は初回投与後、6量体(ヘキサマー)から単量体に緩徐に解離→ほとんどがAlbと結合→時間とともに蓄積して循環血中に「不活性な貯蔵体(デポー)」を形成→標的組織にゆっくりと少量ずつ移行し血糖降下作用を示す。2回目以降の投与でデポーがさらに蓄積され、同剤とインスリン受容体の総合作用が増加。3~4回の投与で定常状態になって同剤の最大の効果が得られ、1週間を通して血糖降下が安定的に持続する。


「1日1回投与のインスリン製剤を生理的必要量に応じて適時・適量注射するハードルが高い」ために生じてきた「アドヒアランスや血糖コントロールの不良」「2型患者のインスリン療法開始先延ばし」「本人や介護者の負担」などの課題解決につながるか、さらなる検証が必要とされている。

 

感染症:欧米等と承認年差が大きい抗菌薬とワクチン


 感染症領域では抗菌薬とワクチン各1品目が承認された。各々欧米での初承認から9年、36年とラグが大きかった〈表2〉


ザビセフタ Zavicefta/アビバクタム・セフタジジム Avibactam・Ceftazidime、ファイザー】同剤は、第三世代セフェム系(セファロスポリン系)抗菌薬セフタジジム(CAZ)に、新規のβ-ラクタマーゼ阻害薬(BLI)アビバクタム(ABV)を配合した抗菌薬。19年承認のタゾバクタム・セフトロザン(販売名ザバクサ、MSD)以来のBLI/セフェム系抗菌薬配合製剤。


 効能・効果について、適応菌種は「本剤に感性の大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、モルガネラ・モルガニー、インフルエンザ菌、緑膿菌」。全てグラム陰性桿菌で、インフルエンザ菌と緑膿菌以外は腸管内細菌。


 適応症は「敗血症、肺炎、膀胱炎、腎盂腎炎、腹膜炎、腹腔内膿瘍、胆嚢炎、肝膿瘍」。


 ABVは「ジアザ ビシクロ オクタノン誘導体」で、β-ラクタム環を持たない非βラクタム系BLI。β-ラクタマーゼと可逆的な共有結合を介し加水分解に対して安定な付加体を形成することで阻害する。


 CAZは、細菌の細胞質膜に局在するペニシリン結合タンパク(PBP)に高い親和性を示して細胞壁のペプチドグリカン合成を阻害し、溶菌により殺菌作用を示す。グラム陰性菌は細胞質膜の外側に細胞外膜、これらに挟まれたペリプラスム間隙があるが、CAZはグラム陰性桿菌の外膜透過性に優れており、菌はこの間隙で同剤に曝露される。


 同社によるピーク時(10年度)の予測本剤投与患者数は622人、予測販売金額は2.5億円(薬価算定時資料)。

 

【関連情報:β-ラクタマーゼ産生による耐性化と治療】β-ラクタマーゼについてはAmbler RP(英)が、遺伝子(アミノ酸)配列に基づいて1980年に提唱した分類が広く用いられてきた。


 β-ラクタマーゼは酵素活性中心によって、「セリン-β-ラクタマーゼ」と「メタロ(亜鉛)-β-ラクタマーゼ」に大別される。前者はさらに「クラスA」「クラスC」「クラスD」に分類され〈表2〉、後者は「クラスB」と称される。


 基質特異性は当初、Aペニシリン系、Cセフェム系、Dオキサシリン系(OXA型)とされていたものの、その後の研究で他系も基質となることがわかってきた。また、多剤耐性化の要因として、クラスAで第三世代セファロスポリンやモノバクタムも分解する基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌や、肺炎桿菌カルバペネマーゼ(KPC)産生菌が、クラスCでは抗菌薬への過剰曝露によって誘導されるAmpC産生菌問題になってきた


 1978年にGSK(英)が開発したCAZは、グラム陽性菌への抗菌力はやや劣るものの、幅広い抗菌スペクトラムを有し、特に緑膿菌をはじめとするグラム陰性菌の大部分をカバーする。その一方、ESBL産生菌やAmpC産生菌には無効だった。


 ABVは、クラスA(ESBLおよびKPCを含む)、クラスC(AmPC)、クラスD(OXA-48のみ)の各β-ラクタマーゼを阻害し、CAZの抗菌力低下を防ぐ。同社は承認時および発売時のプレスリリースで「本剤は、薬剤耐性菌を含む原因菌による複雑性尿路感染症、複雑性腹腔内感染症、人工呼吸器関連肺炎を含む院内肺炎、ならびにこれらの感染症に関連する菌血症に対する治療薬として90以上の国または地域で承認」されており「本邦においても薬剤耐性(AMR)対策の新たな治療選択肢となることが期待される」としている。

 

タイフィム TYPHIM/精製Vi多糖体腸チフスワクチン、サノフィ】同剤は、チフス菌(Salmonella typhi)Ty2 株の培養菌から単離精製されたVi 莢膜多糖体抗原を有効成分とするワクチンで、同抗原に対する抗体を誘導する。サルモネラ属のチフス菌は、非常に強毒かつ侵襲性の腸内細菌で、菌体表面を覆う莢膜(Vi抗原)は菌の病原性(virulence)に関与する。


 効能・効果は、「腸チフスの予防」。2歳以上が対象で、1回0.5mLを、通常は筋肉内に接種するが、皮下にも接種できる。


 腸チフスは、主としてチフス菌に汚染された飲食物から感染。39℃前後の発熱を呈するほか、頭痛、食欲不振、全身倦怠感、下痢、肝脾腫などが見られる。重大な合併症として発症2~3週後に腸内出血や腸内穿孔を起こすことがあるなど、ときに生命を脅かす感染症だ。わが国では全数報告対象(3類感染症)であり、2006年以降、年間20~70例で推移しているが、その70~90%程度が流行国(主に南アジアや東南アジアなど)からの輸入事例。治療には、フルオロキノロン系薬が使われてきたが、近年は薬剤耐性のチフス菌が多く報告されている。


 従来わが国では国内未承認の輸入ワクチン扱いだった。そこで10年に、日本渡航医学会・日本小児感染症学会・日本感染症学会が厚労省に「チフス菌Vi多糖体抗原ワクチン」開発の要望書を提出。「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」において「必要性が高い」と評価され、サノフィ社に開発を要望。国内第Ⅲ相試験を実施し、24年6月に承認された。承認を受けて同年10月に「海外渡航者のためのワクチンガイドライン/ガイダンス2019(2024年補遺版)」が作成された。