その他:補体標的薬開発が活発化


 その他の領域では、希少疾患を対象とする2品目が承認された〈表3〉


ファビハルタ FABHALTA/イプタコパン Iptacopan、ノバルティスファーマ】同剤は、補体B因子阻害剤(低分子化合物)


 効能・効果は「発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)」。成人PNH患者に対し、経口単剤で治療可能なファーストインクラスの薬剤。補体C5阻害剤による適切な治療を行っても場合に投与する。補体第2経路(alternative pathway、後述)を阻害するため、莢膜形成細菌(髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌等)を排除しにくく(感染症を発症しやすく)なる可能性があり、対象患者の適否を慎重に検討する必要がある。


 PNHは、補体介在性血管内溶血を主徴とする造血幹細胞疾患。後天性の遺伝子異常によって数種のタンパクが欠損し、赤血球の補体制御タンパクも欠如しているために、感染などで補体が活性化されると、その攻撃を受けて溶血が起きる。血管内溶血によって貧血、疲労、早朝のヘモグロビン尿などの症状を呈し、進行は緩徐であるものの溶血発作を繰り返すうちに造血不全や血栓症を生じることもある。国の指定難病であり、21年度の医療受給者証保持者数は959人。


 同社によるピーク時(8年度)の予測本剤投与患者数は496人、予測販売金額は215億円(薬価算定時資料)。

 

【補体活性化経路と補体標的薬】補体(complement)は、血液中に存在するタンパク質で、19世紀末に微生物を死滅させる易熱性の血漿成分として発見された。その後、感染防御、凝固系の活性化、免疫細胞の増殖・活性化、上皮細胞・神経細胞・骨などの臓器形成、組織再生など多面的な機能を持つことがわかってきた。


 補体の活性化には、3つの経路、3つのステップ、3つの帰結がある〈図〉。経路は「古典経路」「レクチン経路」「第2(代替)経路」。ステップは「始動」→「近位補体:補体C3とそれに続くC5の活性化」→「終末補体:C5の開裂から膜侵襲複合体(MAC)の形成」。帰結は「異物のオプソニン化(補体や抗体が抗原に結合し、抗原が貪食細胞に捕えられやすくなる現象)」「白血球の動員とアナフィラトキシン作用」「MAC形成による標的破壊」である〔日本内科学会雑誌. 2020;109:1925-31.〕。


 補体関連疾患として、補体介在性の血管内溶血が起こる❶PNH❷非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)、補体経路の活性化とMAC形成が関わる❸全身型重症筋無力症(gMG)、終末補体が介在するアストロサイト傷害が関わる❹視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSO)などがある。


 世界初の補体標的薬エクリズマブ(販売名ソリリス、国内承認10年4月)、およびラブリズマブ(同ユルトミリス、21年8月、いずれもアレクシオンファーマ)は、❶❷❸❹を効能・効果とする。また、22~24年にC5、C3、C1s(C1のサブコンポーネント)、B因子、D因子を標的とする薬剤が次々と国内承認された。なお、イプタコパンは❷、補体沈着が関わるIgA腎症および、C3が糸球体に沈着するC3腎症について、効能・剤型追加のための臨床試験を進めている。

 

テッペーザ TEPEZZA/テプロツムマブ Teprotumumab、アムジェン】同剤は、インスリン様成長因子と結合して細胞の増殖や分化を引き起こす受容体「IGF-1R」を標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体


 効能・効果は、「活動性甲状腺眼症(aTED)」。つまり、TEDの炎症活動期(発症後1~3ヵ月)を指す。


 TEDは、バセドウ病(まれに橋本病)に伴ってみられる眼窩組織の自己免疫性炎症性疾患で、多彩な眼症候(眼瞼浮腫、結膜充血、眼球突出、眼球運動障害、斜視ほか)を呈する。重症例では複視や視力障害を来し、QOLが著しく損なわれる。


 TED患者では、眼窩線維芽細胞においてIGF1-RとTSH(甲状腺刺激ホルモン)受容体が過剰に活性化している。両者がβ-アレスチン(シグナル伝達の制御に重要なタンパク質)を介して複合体を形成すると、シグナル伝達が活性化され、筋線維芽細胞や眼窩脂肪細胞への分化促進、炎症性サイトカイン過剰産生に伴う眼窩組織の炎症・肥大、グリコサミノグリカン過剰産生に伴う外眼筋の線維化などが引き起こされる。テプツロマブは、IGF1-Rに結合し、この現象を抑制すると考えられている。


 同社によるピーク時(10年度)の予測本剤投与患者数は3,400人、予測販売金額は494億円(薬価算定時資料)。



 2024年11月27日現在の情報(各薬剤のインタビューフォーム、医療用医薬品添付文書、審査報告書、各社プレスリリース等)に基づき作成


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本島玲子(もとじまれいこ)

「自分の常識は他人の非常識(かもしれない)」を肝に銘じ、ムズカシイ専門分野の内容を整理して伝えることを旨とする。

医学・医療ライター、編集者。薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師。