■タクアンは大根に戻らない


 各種依存症は本人のみならず、同居する家族にも負荷がかかるが、ギャンブル依存症が薬物やアルコールなど他の依存症と比較して際だっているのは、金銭面での負担が大きいことだろう。負け分を取り返そうと、一発逆転を狙って掛け金が大きくなり、借金は膨らんでいく。法改正などで以前ほど大きな借金はしにくくなったとはいえ、〈ギャンブル依存症には必発〉である。そして、しばしば親など親族による尻ぬぐいが行われる。


 しかし、〈尻ぬぐいの行為ばかりは、逆効果であり、ギャンブル症を必ず悪化させます〉という。実際、冒頭の知人も、学生時代に一度親が消費者金融からの借金を肩代わりし、いったんギャンブル癖は収まったものの再発して、冒頭の借金は2度目の返済不能状態だったようだ。


 ギャンブルでの損失が犯罪に向かうこともある。最近銀行で起こった貸金庫からの窃盗事件もギャンブルでの損失が原因のひとつだった。


 困ったことにギャンブル依存症に効く薬はない。目下のところ、自助グループなどに参加して、地道に治療を続けていくほかない。ギャンブル脳のへの変異は不可逆的で、治療をやめるとまたギャンブルが始まるという。


〈ギャンブル症でいったんタクアンになった脳は、二度と大根にもどらない〉のだ。


 ならば、そもそも国民がギャンブルに触れる機会を減らす施策が求められるが、ますますギャンブルは身近になっている。大阪市で進むIR(カジノを含む統合施設リゾート)の建設しかり、新型コロナ禍で浸透した公営ギャンブルのオンライン化しかり。


 つい最近は、タレントやスポーツ選手が違法のオンラインカジノを利用していたとして、処分されたり活動自粛したことが報じられた。一般人を含めれば、かなりの数が利用していた可能性は高い。


 自業自得と思われているのか、薬がないからか、患者数に比してあまり顧みられてこなかったギャンブル依存症だが、そろそろ真剣に対策を講じなければ巨額の社会的損失を負うハメになりそうである。(鎌)


<書籍データ>

ギャンブル脳

帚木蓬生著(新潮新書990円)