日比谷図書文化館で開催中の『複製芸術家 小村雪岱 装幀と挿絵に見る二つの精華』。知らないアーティストの気になる展覧会でしたので、さっそく日比谷公園へ行ってみました。寒い日でしたが、以前より多くの人がベンチでのんびり過ごしていました。やはり部屋に閉じこもってばかりはいられないのでしょう。
さて、このちょっと読めない名前の人物は、大正から昭和にかけて装幀家・挿絵家として当時大変な人気があったそうで、今回の展示で初めて知ることができました。最初に案内のチラシを手にしたとき、ずいぶん変わったレイアウトだなと思ったのですが、実は彼の挿絵が雑誌掲載の小説にレイアウトされたのを踏襲しているそうです。なかなか凝ったことをしていたのですね。
名もなき新人の日本画家が文豪・泉鏡花に書き下ろし小説単行本『日本橋』の装幀家として大抜擢されて、やがて多くの文筆家に支持されて活躍したそうですが、これまでいろいろ泉鏡花の本の展示を見てきたはずなのにその名に気づくことがありませんでした。同時期の竹下夢二が挿絵でもよく取り上げられていたからかもしれません。それにしても画家が挿絵家という流れはわかりますが、装幀まで多く手がけ、しかもそのどれもが本棚に並べたくなるような作品でした。箱入りの立派なもので、当時はこれが当たり前だったわけですが、この箱と本の組み合わせに意匠があり、本自体も表紙や見返しに仕掛けがあったりとどれも素敵でした。展示されている挿絵だけでも大層な量でしたが、推敲の後がある下書きからするとどれだけ仕事をしていたのだろうを思わずにはいられませんでした。大正時代の新聞の一面展示は彼の作品部分だけではなく、当時の記事や広告がついつい面白くて見入ってしまい、結局1時間くらいかかりました。
小村雪岱を検索してみると、資生堂意匠部に一時在籍して今も続く資生堂独自の書体の源流となった〝雪岱文字〟を持ち込み、晩年には舞台や映画美術にまで関わっていたそうで、まるで東京都現代美術館で見た石岡瑛子が生まれ変わりのように思えました。
今月から三井美術館でも『小村雪岱スタイル 江戸の粋から東京モダンへ』(2/6〜4/18・日時指定予約制)が始まります。そちらでは舞台美術など装幀以外の作品も多く展示されるようなので、小村雪岱の別の作品を楽しめそうです。