没後に注目され、全国巡回展で一躍人気を集めた画家・田中一村。日本画とは思えないモチーフや構図でとても気になる作風です。テレビで紹介されたのを見たことはありましたが、当時展覧会には行かなかったので脚光を浴びた奄美の絵の実物を見たことがありませんでした。それが今〝一村ゆかりの地・千葉〟で観ることができます。しかも、この千葉市美術館収蔵の作品を全部一挙公開というので、ちょっと遠いのですが思いきって行ってみました。
2018年に最大の支援者であった川村家より作品や資料を寄贈され、100点以上の作品を一同に展示するというもので、一村のことを知らない身にはちょうどいい内容でした。
彼は早熟な天才だったのにさまざまな展覧会にことごとく落選し、やがて画壇とは距離をおいて遠く奄美大島に移り、染色工として生計を立てながら清貧の中で絵の制作を続けたが売らずにいて、結局作品を発表することなく亡くなったらしいといううる覚えの知識だけで、かなり頑固な人だったのかと勝手に思っていましたが、説明を読んでかなり間違っていたのがわかりました。
『田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品』(2月28日まで)は、12歳のときの作品に彫刻家であった父・稲邨と一村(米邨)の木彫作品から20代の『椿図屏風』の細かさと迫力に圧倒され、6点の『軍鶏図』の今にも動き出しそうな躍動感と黒い羽根の輝きに魅入ってしまいました。
さまざまな不運に見舞われながらも自分の納得する画風に行きつき、彼の代名詞となった作品が会場の最後のエリアにありました。掛け軸くらいだと思っていたので、まずその大きさに、そしてその緻密さに驚きました。波とか浜辺の小石とかいくら近づいてみても写真かと思えるほど筆跡がわかりませんでした。命を削ったという本人の弁がよくわかります。いつかほかの作品も観たいです。
同時開催の『ブラチスラバ世界絵本原画展』も点数が多く、また『千葉市美術館コレクション名品選2020』の〝近世から近代の日本絵画と版画〟として収集された中にあった1900年代に日本で木版画や日本画を習ったアメリカ人のヘレン・ハイドとプラハ出身のエミール・オルリクという2人の版画作品を観られたのはよかったです。特にハイドの母子像の作品は繊細かつ柔らかな線のやさしい雰囲気で、彼女の作品をもっと観たくなりました。
旧川崎銀行千葉支店を取り囲むかたちで建てられている千葉市美術館の建物は、今年リニューアルしたばかりでいくつもの企画展やイベントなどが開催されています。元の銀行だった部分も活用されて、今「動く浮世絵」というデジタルアートの展示をロボホンが案内しています。