前から気になっていた〝小石川後楽園〟に昨年初めて行ってみたのですが、予想以上にその広さに驚き、いきなり別の時代空間に来た気がしました。庭園を取り囲んでいる木々で車などの騒音がずいぶん軽減されるらしく、都会にいるのを忘れそうな静けさで、その向こうに白い亀の甲羅のような東京ドームや高層ビルが見えるのが不思議な感じでした。
ここは元水戸藩の領地だったそうで、真ん中に大泉水という大きな池があり、その中央にある島の名前が蓬莱島。ほかにも大堰川、渡月橋、西湖の提、白糸の滝、木曾川、竜田川と名前が付けられていました。何でそんな名前なのかと思いましたが、あとでテレビでここが紹介されたとき、この庭園は江戸から京までの東海道の名所に見立ててあるからだというのを知りました。見立て好きですよね、昔から日本人は。この後楽園という名前の由来は、光圀が明の儒学者・朱舜水から「(士はまさに)天下の憂いに先だって憂い、天下の楽しみに後れて楽しむ」という中国の教えを聞いてつけたそうで、つくづく現代の上に立つ者に噛み締めてほしい言葉だと思いました。
江戸にあった大名屋敷は明治になって、ほとんどなくなり、今では各国の大使館の敷地となっているところも多いようです。ときどきテレビで取り上げられているのを見るとどれも広い庭が残されています。当時の雰囲気を保ってくれているので一般人が入ることはまずできませんが、こういうかたちででも残ったのはよかったと思います。
他にももっと小規模で、しかも無料というところもありました。両国の江戸東京博物館へ行ったとき、たまには周辺を散策してみようとぶらぶらしていたら、〝旧安田庭園〟に行き着きました。隅田川の水を引いた汐入回遊式庭園で、小高いところや池のまわりにベンチがあって、近所の人の憩いの場になっているようです。敷地の一角には刀剣博物館があります。もう一つ、偶然見つけた同じくらいの規模の〝目白庭園〟はちょっと迷路のような住宅地にあり、長屋門を入ると伝統的な池泉回遊式の庭で、やはり急に違う世界に来たような気がしました。会合などに使える「赤鳥庵」や「六角浮き見堂」などがあります。ここはもともと静かな住宅地なのですが、思いの外起伏があって自分がどこにいるのか、ちょっと忘れそうでした。大名屋敷跡というのは意外に残っているものですね。小石川後楽園に行ったとき改装中だったので、また紅葉の頃にでも再訪してみたいです。