今や少女マンガを読んだことがないという人でも名前を聞いたことがあるくらい有名なマンガ家の1人が萩尾望都ではないでしょうか。2019年度に女性マンガ家初の文化功労者にも選ばれ、代表作『ポーの一族』は2次元世界から演劇にまでなり、2018年に宝塚の明日海りおが主演で上演されました。これまでも宝塚で上演された少女マンガは数々ありますが、この作品に関しては原作の画面にこだわりをもつファンも多く、いったいどんな表現になるのかに注目が集まっていました。ただでさえ困難なチケット入手の争奪戦に素人が入り込めるはずもなく、千秋楽のライブ・ビューイングに望みをかけてチケットエントリー。ギリギリ第3希望の席が取れ、友人たちと3人で行ってきました。1人だけ少女マンガの洗礼を受けたことのない友人でも、とてもおもしろかったと気に入ってくれましたし、ガチのファンである私もその再現度には驚きました。
萩尾望都のこの初期の作品は、連載当時月刊誌に読切というものでしたが、自分が望まないバンパネラになり、永遠の少年として生きていくエドガーを中心とした人間ドラマで、さらに時系列がバラバラという特殊な構成でした。40年近く前に描かれたのに古さを感じることなく楽しめます。
最近の少女マンガは高校生男女のラブコメが多いし、読まない人にはとても想像できないかもしれませんが、のちに〝花の24年組〟と呼ばれる萩尾望都を含む作家たちの作品の多くは恋愛重視ではありませんでした。萩尾作品をすべて読んではいませんが、一番ハマっていた頃に好きだったもうひとつの作品『トーマの心臓』はファンタジーでもSFでもなく、多感な少年たちの話ですが、とにかく話に奥行きがあり、ちょっとした脇役の人物描写までいわゆるキャラが立っていて、そのうえ画面構成が実に画期的で、デッサン力もあるし、動きが感じられます。そこから派生した番外編『訪問者』は少女マンガの枠を超え、今読んでも秀逸です。
2016年に始まり各地を巡回した『萩尾望都SF原画展』や、2019年の宝塚とコラボした『デビュー50周年 萩尾望都ポーの一族展』では、その美しい線描写がザラ紙の雑誌でも、小さなコミックスでもなく原画として直に見られるという、ファンにはたまらない展覧会もありました。ペンで表現された1枚の紙に宇宙や心情が描き出されていて、改めてその素晴らしさを堪能できました。そして最近発売された雑誌サイズでカラーページも再掲の豪華本を、帰宅後早速読み返しました。もちろん新書版コミックスも持っています。