大森駅からバスで移動。住宅街の中にある大田区龍子記念館は規格外の日本画家・川端龍子の作品を展示するために自ら設計した美術館です。龍の形をしているそうで、少し角度のある空間を歩くことになります。以前から気にはなっていましたが、これまで龍子の作品を観た覚えがないのは、どうも日本画の世界ではちょっと異端であったようで、他の画家と並べて展示というのがあまりなかったからかもしれません。



 テレビで紹介され、興味を持ったので終了ギリギリ前に行ってきた『川端龍子vs.高橋龍太郎コレクション』は、龍子作品と注目の現代美術アーティストの作品を展示したもので、これがとても見応えがあっておもしろかったです。タイトルにある〝高橋龍太郎〟という人物は現代美術コレクターの第一人者だそうです。



 入ってすぐに龍子の『香炉峰』(1939)という、戦闘機がはみ出る大きさに描かれた六曲一双の作品が目に飛び込んできましたが、しばらく眺めていてその機体が透けていることに気がつき、また驚かされました。それに合わせて置かれた会田誠の『紐育空爆之図(戦争画RETURNS)』(1996)は何と古いふすまに描かれています。戦争に対してどちらも静かな抗議をしているようです。



 龍子の作品はどれも日本画としては大きく、もちろん屏風やふすま、天井画という日本画の大作は他の画家作品でもありましたが、彼の作品の印象が他と違うのはモチーフの大きさにある気がしました。依頼されて描いた山本五十六の肖像画は大き過ぎて受け取りを拒否されたとか。確かに肖像画としては大画面でした。爆風によって飛び散る植物が描かれた『爆弾散華』も思っていた以上のサイズで、美しいものが無惨に破壊されているさまは何とも悲しいものでした。また黒と金だけの屏風『草の実』(1931)はその繊細な線の美しい曲線に息を飲み、どの作品も大きさからだけではない迫力がありました。


 洋画に行き詰まって独学で日本画を習得したというだけあって、現代アートの若手作家(会田誠、鴻池朋子、天明屋尚、山口晃)と並んでもまったく時代の差を感じませんでした。すでに終了していますが、ネットで検索すればどんな展示であったか観ることができます。


 展覧会開催中は道を隔てた向かいのアトリエなどが現存する敷地に入ることができます(こちらは無料)。庭を回りながら、室内や爆撃による穴が「爆弾散華の池」として残されているのを見ることができます。観覧料や関連グッズは他所より安かったです。今は『名作展「みなさんが選ぶ!龍子記念館コレクション」』(2022/4/10まで)で、龍子作品が堪能できると思います。


 余裕と体力があれば、すぐ裏手の佐伯山に登ると広い視界が楽しめます。