イラストレーターだと認識していた和田誠作品との最初の出合いは絵本『けんはへっちゃら』です。あの頃から晩年まで絵のテイストはほとんど変わっていないというのもちょっとすごいと思いますが、それを一気に見ることができる『和田誠展』(12/19まで)が初台にある東京オペラシティ・アートギャラリーで開催中です。



 初めて読んだ絵本の内容はうる覚えですが、男の子が見つけた拳銃を撃つというシーンのインパクトがあってそこだけ記憶しています。今なら完全にアウトな気もしますが、描かれたのほほんとした雰囲気が不思議な世界を作り出していました。


 私の第一印象はこの絵本ですが、イラストレーター、グラフィックデザイナーというだけでなく、たくさんの仕事をしてきた人だというのがこの展覧会でよくわかります。


 すっかり忘れていましたが、キョンキョンこと小泉今日子が活躍する『怪盗ルビィ』と真田広之の『麻雀放浪記』の映画も手掛けています。もちろん当時話題で観に行きました。監督と脚本のみならず、挿入歌などの作詞作曲、もちろんポスターも手がけているとは知りませんでした。こうしてみるといったいこの人は何者だったのかと思ってしまいます。目の前に広がる作品の多くが抑揚のない線で描かれていたり、ほとんど陰影のない単純化された構図で、どれも一目で和田作品とわかります。お芝居でも本の装丁でも内容が、ちょっとこのテイストでとは一瞬思っても、なぜかあの独特のイラストがそれぞれの話や人物をちゃんと表現しているのがすごいです。



 この似顔絵というのが原点のようです。高校生の時に時間割表に科目ではなく、担当の先生の顔にするという発想が素晴らしい。それと絵本。デザイナーとしてバリバリ仕事をこなしていても絵本を作りたいと、ついに私家版絵本を制作したそうで、このやり遂げるというかあきらめないのが彼の原動力だったのかもしれません。


 会場に並ぶ角柱の一面ごとにその年の主な作品を紹介してありましたが、なんと始まりは4歳(1940年)で最後は亡くなった83歳(2019年)でした。



 ガツガツした感じはないですが、これだけの仕事量は完全にワーカホリックだったのではないでしょうか。でも、会場の最後に上映されていた仕事をしている映像を観ると、大変だけどなんだか楽しそうで仕事が好きなんだなと思いました。何しろ家族に歌う料理家がいるわけですし、明るい雰囲気に包まれていたのではないでしょうか。観る方もなんだかとても楽しくなりました。