他ではあまりない企画が気になっていた練馬区立美術館は、馴染みのないエリアなのでこれまで行ってなかったのですが、春に開催された『電線絵画展-小林清親から山口晃まで-』でついに西武線池袋線中村橋駅まで行ってみました。驚いたのが、改札を出て3分で着く線路沿いにあったことでした。建物の前には〝美術の森緑地〟としてファンタジーな彫刻が置かれた公園になっています。
そのときの展示は「デンセンマン音頭」で世の注目を集めて以降、邪魔もの扱いで排除されつつある〝電線〟を通して時代の移り変わりをこれまでと違う視点から楽しめる企画展でした。これから諸外国に遅れをとるまいと文明開化を推し進めた日本の人々にとって、電線が最先端の象徴のひとつだった時代だったというのを初めて知りました。
日本最古・安政元年の電線絵画から始まり、やがて当時の人々の目に〝電信柱は近代化した東京の誇り〟と映っていったのがわかりました。大河ドラマでペリーが2度目の来日で日米和親条約を締結というシーンがありましたが、このときアメリカはエニボッシング・モールス信号機を献上し、また電信機の実験も行われたという蘊蓄を得ることもできました。
ところで、電線とは〝架空線〟というのが総称で、用途別に電信線(電信用)、電線(電気用)、架線(電車用)の3種類に分類されるので、夜の街にシルエットのように描かれた電柱と電線は電信用で、街灯はガス灯だそうです。ガス灯は今も銀座にありますね。
月岡芳年、河鍋暁斎、川瀬巴水、吉田博といった浮世絵などの絵師や岸田劉生、佐伯祐三、木村壮八など洋画家の作品も電線に焦点をあてるのが新鮮でしたし、私の知らない当時人気だったという画家の作品も多くありました。そのなかで多く展示されていたのが「光線画」で有名な小林清親です。
さて、今開催されているのが〝最後の浮世絵師〟小林清親の『収蔵作品による小林清親展【増補】-サプリメント-』です。一部屋だけですが、たくさんのスケッチや肉筆画、下絵など様々な作品を楽しめるうえに無料です。
これまで観る機会がなかった作家を知るのにちょうどいいと思います。2022/1/30まで開催しています。