イスラムとアラビア


 エキゾチックという言葉で連想するのは、西洋でもなく東洋とも少し違うアラビアの風俗と建物に現実離れした『千夜一夜物語』の世界。ディズニーの『アラジン』の影響もあり、魔法があってもおかしくないおとぎの世界に思えてしまう未知の世界が中東にはあると頭のどこかで思っていました。そこに宗教を意識したことはないですが、まず〝イスラム〟とはそもそもどういうものなのか知らないので、多少は補えるかなと東京国立博物館で開催されている『マレーシア・イスラーム美術館精選 特別企画「イスラーム王朝とムスリムの世界」』(2/20まで)に行ってみました。


 東洋館の一部のエリアでの展示なので、それほど詳しくわかるわけではありませんが、耳にしたことのある王朝名の順番を年表で見ることができ、7世紀に創始されたイスラム教が世界中に広がって、それぞれの国の文化と融合したことで美しい作品が生まれたのがわかりました。


 初めて体験したアラビア風の空間は、友人と訪れた代々木上原駅近くの東京ジャーミイでした。当然女性はスカーフで髪を隠さなければならない決まりで、緊張もしましたがとても静かで落ち着く場所でした。


 映画『千年医師物語 ペルシアの彼方へ』(2013)は当時最も進んでいたペルシアの医療に関わる話でとてもおもしろかったのですが、続編は製作されておらず、すでに原作小説も廃版なのが残念でした。お気に入りのエッセイマンガ『トルコで私も考えた』(高橋由佳利)に描かれるトルコにおけるイスラム世界は、寛容で東西文化の交流するおおらかさがあるように思いますが、最近のトルコは少し変わったようです。


 トルコについて以前は日本と関わりがあると思っていませんでしたが、映画『海難1890』(2015)に描かれたエルトゥールル号遭難事件をきっかけに両国の関係ができ、第一次大戦でロシアの無敵艦隊を倒したのをトルコの人々が喜んだというのを後に知り、世界の覇者であったオスマン帝国の話は塩野七生の『海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年』や瀧澤龍子の『寵妃ロクセラーナ』など小説で歴史の背景を読みましたが、国家の成り立ちとイスラム教とを関連付けて考えたことがなかったので、こんなに広範囲にわたって様々な文化を生み出していったのを今回の展示で観ることができました。



 広がったイスラム様式が産み出した装飾品や建築物、調度品はどれも驚くほど繊細で、初期の頃に多くあった人物画も細密でしたが、やがて装飾は花とか幾何学的な模様や独特なアラビア文字が絡むものが多くなっていったのがわかりました。意外だったのは文字を使った現代アートがあったことです。アラビア書道は、成り立ちがそもそも日本や中国のとは違って、神の言葉・コーランのために1000年以上もの時間をかけて磨かれた装飾的で美しい曲線を持つ文字なのだそうで、まるで絵のように書かれています。それがさらにアートとして展開しているようです。



 この展示はイスラムの世界を知る入門編としてうってつけです。東京国立博物館の入場料で観覧できますが、日時指定予約が必要です。