1200年以上前の品々が眠る正倉院。様々な宝物があまりパッとしない木造の蔵に仕舞われているのは教科書で習いましたが、それを毎年公開しているのを大人になって知ったとき、いつか奈良まで観に行きたいと思っていました。そして友人を誘って行った奈良で、千年も前の品々が目の前にあるのかと圧倒され、その細かさや造形に驚かされました。でもやはり長い年月による劣化はあるので、できた当時の色彩は想像するしかありません。その往時の作品を美しく甦らせ、再現した宝物を展示しているのが今サントリー美術館で開催中の『御大典記念 特別展 よみがえる正倉院宝物―再現模造にみる天平の技―』(3/27まで)です。
〝模造品〟という言葉は何となく、〝安物〟というイメージが浮かんでしまいますが、そんな考えはここの品々の前では思いもつきませんでした。例えば、今回の目玉の〝螺鈿紫檀五絃琵琶〟は今ではワシントン条約などで取り寄せられなくなった原料をギリギリの時に入手。そこから多くの技術者の技で作り上げられていって、材料集めから完成まで15年にも及ぶ年月がかかっているというものだそうです。また〝黄銅合子〟のレントゲンによる調査で解明された構造を見ると本当に手作業だけでこれだけの物を作ったのかと思うほどでした。
明治時代から始まった再現模造の製作は近年、伝統技術保持者と最新の調査・研究によって、宝物の材料や技法、構造の忠実な再現に重点を置いて行われているそうです。
演奏できるよう再現された琵琶は、実際に奏でられることはないでしょうが、この煌びやかな楽器からきっと天上界の調べが聴けるに違いないと妄想できます。その装飾で一番驚いたのは螺鈿細工のオレンジの部分で、鼈甲の半透明の黄色の部分に線刻と着彩を施し、その面を内側にすることで色が剥がれたりしないようにされていました。映像の紹介を観たのに実物のあまりの細かさに再度映像で人の手による技なのを見直してしまいました。それぞれのプロの技が一つになって完成まで7年がかりというのも頷けます。絃にしても、皇居で現上皇后さまの育てた日本古来の蚕「小石丸」の繭の糸で復元され、その琵琶を包む布に使われた赤い染料は、ほとんど姿を消した日本茜がかろうじて皇居にあったことから、そこから増やしたそうで、奇跡がいくつもあってこうして私たちがその素晴らしさを堪能できているわけです。
一度失ってしまうと、原料も技術も再生させることが難しいもので、それを途絶えさせないためにこういうプロジェクトは、困難が多いでしょうが続いていってほしいものです。