久しぶりの東京都庭園美術館。ここで今開催されているのは『奇想のモード 装うことへの狂気、またはシュルレアリスム』(4/10まで)です。〝モードとシュルレアリスム〟とはどういう組み合わせなのかに引っかかっていたのですが、これが想像以上に楽しい展示でした。
さて、エントランスの美しいルネ・ラリックのガラスの乙女を観ながら入口で案内シートをもらって中に入ると、いきなりダリの『抽き出しのあるミロのビーナス』が出迎えてくれました。そういえばこれまでダリの彫刻作品を見たことがなかったなとぐるりと鑑賞。こんなのがあるとは思っていなかったし、これ1点ではありませんでした。
シュルレアリズムといえば昨年『マン・レイ展』にも行きましたが、アート界のさまざまなムーブメントが普通の暮らしに影響を及ぼすと考えたこともなく、非日常の世界のものとして鑑賞していました。今回の展覧会では取り上げているモードにおけるシュルレアリズムという概念が人々に影響し、浸透していったというのが実にわかりやすく考察できるようになっていました。
現代のファッションショーに登場するパリコレなどの奇抜な服はもちろんそういうのを着こなす世界の人々がいるわけですが、一般人としてはもはや現代アート鑑賞です。それは数点展示されていたエルザ・スキャパレッリ(モードに革新を起こしたココ・シャネルのライバル)が、ダリに触発されて発表したドレスをみたときにこのあたりから変わっていったのかなと思いました。でもマリー・アントワネットの頃の頭上に帆船をのせているスタイル画を見ると時代の最先端は常に尖っていたのですね。
アーティストとファッションデザイナーがお互いに刺激し合いながら新しい価値観を生み出して発表された服や香水瓶など、もちろん身に纏うのは最新流行に敏感な一部の人々が中心だったでしょうが、街中に出現した〝アート〟なので意識していない人の目にも触れたことでしょう。展示されていた1920年代頃の雑誌『BAZAAR』の表紙などファッション雑誌とは思えない斬新さでしたが、人々に受け入れられていたのがよくわかりました。
また、もはや現代では考えられない極限までウエストを締め上げるコルセット、幼少期から強制的に足を大きくしない施術によってつくられた纏足用の小さな靴など一見美しい装飾に惑わされますが、これに人体を合わせることが究極の美であった時代のちょっと怖い流行も紹介されていました。他に甲虫の翅を使った服やアクセサリー、極楽鳥の羽根の帽子に猿の毛の服、そして現代の素顔を出さないマルタン・マルジェラの作品やレディ・ガガが使用して注目された舘鼻則孝のヒールレスシューズ、遺伝子操作によって造られたシルクによる暗闇で発光するドレスとバラエティーに富んだ展示がおもしろかったです。