随分前から気になっていた美術館の今までチャンスを逃していた展示についに今年行くことができました。それは5月の根津美術館。初めて訪れたのですが近年建て替えたそうで、とてもモダンな建物でした。通りからすぐには入口が見えず、まず竹が植えられた小道を進んでいくので、ここが青山だというのを忘れてしまいます。



 さて、なぜ〝5月〟なのかというとここにはあの有名な『燕子花図屏風』があり、かきつばたの咲く時期にのみ公開だからです。ここの庭に実際に植えられたかきつばたも楽しめます。つまり二次元の絵画と三次元の花が同時に鑑賞できるというぜいたくな時間を過ごせるという趣向になっているわけです。しかしながら、開花時期の予想は実に難しく、当然ここも日時指定制を導入しているので、きっとこの日なら咲いているはずという目星をつけて、半月前に予約をしました。当日はあいにくの雨でしたが、庭を散策する人のために無料で傘を提供してくれているので、しっかりしたその傘をさしながら、かなり起伏のある広い庭を奥に進むと雨でより鮮やかになった様々な色合いの緑の中に目当てのかきつばたが見えてきてゆっくり見ることができました。それにしても庭の広さが建物の3倍はありそうで、都会の真ん中にいる気がしませんでした。



 今年の展示は『特別展 燕子花図屏風の茶会』(5/15まで)というタイトルで、根津美術館のコレクションの礎を築いた実業家・初代根津嘉一郎が蒐集した屏風や掛け軸を飾った自宅での茶会を再現するかたちで構成されるというちょっと面白いものでした。


 茶会なら単に点ててもらった一服のお茶をいただくものと思っていたのですが、これが一日がかりの行事なのを知り驚きました。


 昭和12年5月の茶事(正式な茶会)をもとにしたもので、流れを書いた案内によると、まず待合室で客が身支度を整えるところから始まり、本懐石で懐石料理と酒が振る舞われ、その後別室で休憩。再び床の間の掛け軸も変えられた茶室で濃茶、広間に移動して薄茶をいただく。それから大書院で名屏風に囲まれて酒宴が開かれ、最後に小書院で番茶・果実などとともに道具の箱などを拝見するという行程でした。そのとき供された茶道具や絵画で再現しているわけで、なかなか入ることのない世界の人々の茶事の様子を垣間見られる展示でした。


 目当ての『燕子花図屏風』も素晴らしかったですが、並んでいた円山応挙の『藤花図屏風』も本当に見事でした。


 この企画以外の部屋の展示品もよかったです。かきつばたはもう終わっているでしょうが、ゆったりできる美術館です。