■「聞こえづらい」問題

 長引くコロナ禍。マスク越しでの会話が聞こえづらい、パーテーション越しでの会話が聞こえづらい、Web会議での会話が聞こえづらい……。コロナ禍で話題に上る「聞こえづらい」問題です。これらはコロナ禍での話題ですが、「聞こえづらい」はコロナ特有の問題ではなく、コロナ以前より、会議の声が聞こえづらくて困っている方もいらっしゃるでしょう。


 聞こえづらいというと、高齢者の問題と思われるかもしれませんが、決してそんなことはありません。一般社団法人日本補聴器工業会が、人々の聞こえの不自由さ(難聴)や補聴器についてどのように考えているか、使用状況を調査した「JapanTrak 2018」によると、自己申告による難聴者率は、45―54歳で7.0%、55―64歳でも8.9%でした。聞こえづらいと感じている方はどの世代にもいることが分かります。


図1: 難聴者率 (難聴またはおそらく難聴だと思っている人の割合) (JapanTrak 2018より作成)


 そんなときの強い味方が「補聴器」です。高齢者が装用するものというイメージをもつかもしれませんが、そんなことはありません。小型化はもちろん、スマートフォンと連動可能なモデルも登場しています。また、難聴だと気づかれたくないという理由から装用をためらう方もいるかもしれませんが、聞こえづらいことに向き合わないデメリットも多いです。会議で聞き取れていなかった発言に返事をしている、発言に対して何度も聞き返している、といった状況を繰り返し、周囲から誤解を受けるよりも、聞こえづらいことを改善したほうが、QOLの向上にも繋がり、よりよいビジネスにも繋がるでしょう。事実、JapanTrak 2018によると、仕事を持っている補聴器所有用者の内、93%の方が補聴器は仕事上で役に立っていると回答しています。


■正しい購入方法を知る

 「補聴器」とインターネットで検索すると、メーカーのホームページや、ショッピングサイトがヒットします。ショッピングサイトをみると、値段や形もさまざまなものが並んでいます。クリックするだけで手軽に買えると思われるかもしれませんが、手軽さゆえの問題があります。前述のJapanTrak 2018より、補聴器購入者の満足度を購入場所別でみると、補聴器専門店で購入した方の満足度は45%に対し、インターネットで購入した方の満足度はわずか15%です。


 2021年2月25日付、 独立行政法人国民生活センターより「補聴器トラブルを防ぎましょう!」と題する報道資料が発表されました。全国の消費生活センターに、補聴器に関する相談が寄せられているようです。主な相談事例をみると、オンラインショッピングでは「誰でも装着可能という補聴器を購入したが、耳に合わない」、「商品が届かない」といったものが並び、店舗販売でも「不安をあおられ購入したが、医師から耳は正常で必要ないと言われた」「試用したものと違うタイプの補聴器を勧められたが、我慢できないほどうるさい」といったトラブルがあるようです。


 補聴器は、それぞれの聴力に合わせて機器を選び、調整が必要な「管理医療機器」です。「集音器」や「助聴器」と呼ばれる音響機器とは違います。補聴器を検討する際には、聞こえづらい原因や正確な評価を得るためにも、まずは専門医を受診することが大切です。一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のホームページには「補聴器相談医名簿」が公開されており、ここから同学会の認定制度をクリアした「補聴器相談医」を探すことができます。補聴器相談医の詳細はこちらよりご覧ください。


 医師の診断後、補聴器販売店へ足を運ぶこととなりますが、販売店は「認定補聴器専門店」にしましょう。これは公益財団法人テクノエイド協会が認定するもので、補聴器の調整や選定に必要な人員や測定機器、設備に係る審査基準をクリアした専門店です。認定補聴器専門店の運営基準はこちらをご覧ください。


 同協会のホームページからは、補聴器の調整、指導などを適切に行うことのできる、専門的な知識と技能を習得した「認定補聴器技能者」の一覧も確認できます。認定補聴器技能者は、一言でいえば補聴器のスペシャリストです。この資格は、4年間の講習を経て、試験に合格することで得ることができます。資格取得後も、5年おきに講習を受け、資格の更新が必要となりますので、知識・技能はお墨付きでしょう。認定補聴器技能者の詳細はこちらをご覧ください。

 補聴器店舗を探す際には、上記情報を確認の上、選びましょう。


 まずはインターネットで気軽に確認したい場合、一般社団法人日本補聴器工業会のホームページには「今スグわかる!!「きこえ」の簡単チェック」として、YES/NO形式で自身のきこえを確認できるコンテンツがあります。また、WHOからは「hearWHO」という、自分の聞こえを確認できるアプリが公開されています。自分の聞こえを再確認してはいかがでしょうか。


■わずらわしい?恥ずかしい?

 まだためらいがある方へ、そんなお気持ちも当然でしょう。前述のJapanTrak 2018でも、補聴器を使わない理由の第一位は「わずらわしい」となっており、中には「補聴器を装用することが恥ずかしい」といった理由もありました。しかし、重ねていいますが、JapanTrak 2018によると、仕事を持っている補聴器所有用者の内、93%の方が補聴器は仕事上で役に立っていると回答しています。


 こちらは役者・井上順さんのTwitterです。井上さんは、50代半ばで聞こえづらいと思い、耳鼻科を受診、難聴と診断されました。最初は補聴器に抵抗があったようですが、Twitterを見てわかる通り「今思うとバカみたい」とのことです。なお、井上さんは、2019年2月よりリオネット補聴器のアンバサダーも務められています。(リオン株式会社プレスリリース 「井上順さんが 「リオネット補聴器アンバサダー」に就任!」2019年02月15日)


 会議の時だけ装用する、会議室にレンタル補聴器を置いてみる、聞こえづらいシーンでのみつける、まずは片耳だけつけてみたい、などなど、利用方法はあなた次第です。こちらに補聴器のレンタルプログラム情報をまとめました。まずはお試ししてはいかがでしょうか。



<医薬経済オンライン 関連記事>

 ・補聴器について① (2021年9月16日)

 ・補聴器について② (2021年9月17日)

 ・機器企業の経営診断 リオン 着実な成果みせる成長戦略 補聴器から産業機器へ拡大 (2019年11月15日号)


【参考】 *リンクはすべて2022年5月16日アクセス

 ・一般社団法人日本補聴器工業会

 http://www.hochouki.com/

 ・独立行政法人国民生活センター「補聴器トラブルを防ぎましょう!」

 https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210225_1.html

 ・一般社団法人日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会

 http://www.jibika.or.jp/

 ・公益財団法人テクノエイド協会

 https://www5.techno-aids.or.jp/

 ・特定非営利活動法人日本補聴器技能者協会

 https://www.npo-jhita.org/

 ・WHO「hearWHO」

 https://www.who.int/teams/noncommunicable-diseases/sensory-functions-disability-and-rehabilitation/hearwho