今回初めて知ったドイツの美術館の所蔵する作品の展覧会、乃木坂の国立新美術館で開催中の『ルートヴィヒ美術館展 20世紀美術の軌跡―市民が創った珠玉のコレクション』(9/26まで)に行ってみました。ここもやはり実業家や弁護士などのコレクションから始まったそう。いつの時代もこういうコレクターがいるというのは素晴らしい。
ポスターのメインビジュアルに使われているウォーホールの作品のモデルが、美術品のコレクターというより陽気なおじさんという風情のペーター・ルートヴィヒ氏です。彼は妻と共に多くの近代作家の作品を収集し、特にピカソの作品に惹かれて初期から晩年までの多くを持っていて、寄贈された美術館に修造されているピカソの作品は世界3位の点数を誇るそうです。また弁護士のヨーゼフ・ハウプリヒはドイツ近代美術を寄贈した経緯があって美術館が設立されたとのこと。
ヒトラーは自身が美術大学への入学を希望していたのにそれが叶わず、その恨みからなのか彼の嫌っていた抽象美術などを集め、〝退廃芸術展〟と銘打って開催した美術展は、ミロやカンディンスキー、ピカソなどそういう芸術を求めていた人々にはまるで夢のような美術展になっていたのではないかと思います。黙って、でもしっかり目に焼き付けるように鑑賞していたかもしれません。そんな中でもハウプリヒらはナチスの目を掻い潜りながら作品を入手したり、戦後は有名なポップ・アートや前衛的な作品も集めたおかげで、この近代から現代まで芸術の流れがわかる幅広い作品が、こうして鑑賞できてよかったとつくづく思いました。
また暗い色調で怖い印象を受けるものが多く、アーティストたち自ら体験した大きな戦争が創作の源になっているのがわかり、改めてその作品が作られた時代背景を思い起こすこともできました。ドイツやロシアで自分の生きてきた社会に対してメッセージを投げかけるアーティストのいろんな作品を観ることができてよかったです。この企画が決められたとき、まさかウクライナとロシアでこんな事態が起こるとは誰も思っていなかったでしょうが、今まさに観るべき美術展だった気がしました。もちろん、ウォーホールやマン・レイ、そしてもっと最近の作品まで時代を感じながら、または頭を空っぽにして向き合ってみるのもおもしろかったです。