ウクライナという国がどこにあるのかもよくわかっていなかったし、歴史もほとんど知らなかったのですが、『赤い闇 スターリンの冷たい大地で』(2019)は衝撃でした。
世界恐慌の嵐が吹き荒れるなか、スターリンが統治するソビエト連邦だけが繁栄しているわけを探りに行った記者の目を通して描かれたホロドモールという人為的な大飢饉。中国の文化大革命時に穀物を食べるという理由でスズメを一掃してしまったため、逆にイナゴの大発生で飢饉になったという話を聞いたことがありますが、豊かな穀倉地帯のウクライナが当時ソ連に搾取され、こんな悲劇が起こっていたのを初めて知りました。
もうひとつロシアの一面を描いた『あの日の声を探して』(2014)は古い映画に着想を得てロシアに侵攻された1999年のチェチェンを舞台にした作品。両親を目の前で殺されて声を失った少年と、ロシア軍に強制入隊させられたごく普通の青年の視点から描かれています。突然巻き込まれた理不尽な世界が、今のプーチンの戦争の舞台になったウクライナに重なる気がしました。
ソ連側の世界を描いた「ソビエト連邦には犯罪は存在しない」という建前のスターリン時代を描いたリドリー・スコット監督の『チャイルド44 森に消えた子供たち』(2015)でもホロドモールが絡んでいます。ウクライナの殺人鬼をモデルにした小説が原作ですが、これは小説版をお勧めします。
また『剣の舞 我が心の旋律』(2019)は大粛清時代、誰もが一度は聴いたことのある曲が生まれた背景の秘話で、祖国アルメニアでの虐殺に対する怒りや悲しみを秘めた主人公を中心に権力者に翻弄される人々の苦悩を知ることができます。
その〝アルメニアの大虐殺〟を描いたのが『消えた声が、その名を呼ぶ』(2014)と『THE PROMISE 君への誓い』(2016)で、1915年にオスマン帝国で起こったアルメニア人をめぐる「20世紀最初のジェノサイド」に翻弄された人々の物語。これも全然知らなかった出来事でした。
教科書ではわからない国や人種間の関係性や歴史的背景を描いているこれらの史実をもとにした作品は、どれも途中で映画館を出たいと思うシーンがありましたが観てよかったと思いました。
ウクライナ侵攻が始まってすぐの頃、ロシア兵にこの種をポケットに入れておけば死んだ後そこにひまわりが咲くと迫った婦人の映像を見ましたが、ウクライナといえば一面のひまわり畑が印象的な『ひまわり』(1970)。これまで何度か映画館で再上映されています。オリジナルネガは消失しているそうですが、HDレストア版として復活し、この春全国でまた上映されます。ストーリーは身勝手な男の話だと思うのですが、それぞれの国の様子や人々の考え方を少し知ることができます。