今年公開された映画『バビロン』の舞台はゴールデンエイジと言われる20年代のハリウッド。サイレント映画からトーキーへの過渡期の映画界に実在した人物をモデルに〝狂乱の世界〟を描いた作品でした。思わずパリのアート界で仮装した藤田嗣治らの狂乱のパーティーの写真を連想しました。


 ここのところ1920年代のパリを中心にした展覧会をよく観に行っていましたが、ローランサンもこの年代の画家だったというのをすっかり失念していました。Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されている『マリー・ローランサンとモード』(4/9まで)で、パリでは差別もあったでしょうが、思った以上に女性が目覚ましい活躍をしていたのを改めて理解しました。



 ローランサンはグールゴー男爵夫人の肖像画が評判になり、一躍脚光を浴びたそうです。あのシャネルも注文したけど気に入らずに描き直しを迫ってもローランサンが応じなかったので作品の受け取りを拒否したという話ですが、ちょっと弱々しい感じが気に入らなかったのかもしれません。でも2人はパーティーや食事に一緒に行ったほどの仲で、はっきり言い合えてお互いの才能を認める間柄だったのでしょう。その肖像画はマン・レイによって撮られた写真のキリッと意思の強そうなイメージとは正反対で、結構似ていますがシャネルの見せたくない一面を表しているのかなと思いました。ココ・シャネル絡みの展覧会で知ったライバルのエルザ・スキャパレリとは反発しあっていたようですが、ローランサンとは同士のような感覚で結びついていたのかもしれません。


 当時最も人気のエンタメだったバレエ。セルゲイ・ディアギレス率いるバレエ・リュスでシャネルも衣装を手掛け、台本をジャン・コクトー、舞台幕はピカソという夢のコラボ作品が上演され、ローランサンも衣装と舞台美術担当した演目があったそうです。このように絵画だけでなく室内装飾やモードなども手掛けていたのも初めて知りましたし、様々な交流関係や生活の様子がわかりました。そういえばマン・レイ展でもファッション関係の作品があったし、いろんな視点からひとつの時代を考察できてよかったです。


 そのマン・レイがある伯爵夫人主催の「白の舞踏会」で最近の技術だと思っていたプロジェクション・マッピングでカラーネガを白いドレスに投影して話題になったという記述には驚かされました。


 当時のアーティストたちのいろんな側面を見ることもできた面白い展覧会でした。


 ローランサンが関わったバレエが女性同士の恋愛を暗示する「雌鹿」というタイトルで、実は彼女にはニコル・グレーという親友以上の仲の女性がいたとそんな関係性を何となく示す紹介がありました。2人は家族ぐるみで生涯にわたり親密に交流して、グレー夫人の夫の影響で仕事の幅も広がったそうです。ちょうど『バビロン』でも人気のレズビアン歌手が女性と親密な様子を隠しもしないという描写がありましたが、周りの業界人は誰も表立って批判しないけど世間的にはスキャンダルになるから控えた方がいいと忠告する場面は、100年経っても変わらないなと思いました。でも限られた業界内では誰もさして気にもしないというところは、現代よりちょっと優しい時代だった気がしました。もっとも映画はオープニングのパーティーシーンがかなり過激で、同性の恋愛なんてたいしたことじゃなかったようですが。