お気に入りの三菱一号館美術館が休館。24年秋頃の再開館まで待たなくてはなりません。その休館前ラスト展覧会が『芳幾・芳年―国芳門下の2大ライバル』(4/9まで)です。



 最後の浮世絵師・月岡芳年は最近人気でよく展示されたのを観ましたが、歌川国芳の門下でともに修行したという落合芳幾については名前に覚えがなったので、ここで2人の関係や幕末から明治という激動の時代に浮世絵師としてそれぞれ歩んでいった道が違っていったことやその時代の背景を知ることができました。


 2009年に復元して翌春に三菱一号館美術館として生まれ変わった元の建物は芳幾・芳年のふたりが生きた幕末から西洋の文化をどんどん吸収していった時代に建てられて、界隈は一丁倫敦と呼ばれ、そのレンガの壁の前をちょんまげの人とざん切り頭の人が通っていたのかと妄想するのも楽しいです。


 そして今回の展示作品を見ていくと急激に世の中が変化していくなか、人々はどんな暮らしをしていたのかが見えてきます。


 色刷りの浮世絵といえば、徳川の太平の時代なら花形役者のブロマイド(今ではこの言い方も聞かないですが)や東海道五十三次などの風景画くらいしかないと思っていましたが、明治になると新しいメディアである新聞に欠かせないものになっていたのですね。もともと江戸時代には瓦版というものがあったわけで、それがカラー版になり、まさに写真週刊誌のようで、しかもかなり誇張した創作の入ったものですが、読者に臨場感たっぷりに見せることで購読数を得ていたのでしょう。


 時代の変化は絵師だけでなく摺師など分業で成り立っていたこの業界に大変革の波が押し寄せていたということで、歌川国芳の門下で共作もていた2人が、やがて別々の方向に進んで行ったというのもわかりました。


 この歴史の裏話として、以前読んだ浮世絵の世界に生きた人々の話を書いた梶よう子の『ヨイ豊』がおもしろかったのを思い出しました。


 今回マンガ化された山田風太郎の代表作『警視庁草紙』が、コラボレーションのために描かれた芳幾と芳年を主人公としたオリジナルストーリーで警視庁草紙外伝『異聞・浮世絵草子』が雑誌に掲載されたということで、その紹介コーナーも設けられていました。山田風太郎は『南総里見八犬伝』や『魔界転生』のイメージでしたが、探偵小説やミステリ作品をずいぶん書いているのですね。ちょっと探して読んでみようと思います。



 紙媒体だけでなく、大きな板絵などの肉筆画もありましたし、とにかくたくさんの様々な趣向の作品があって、見応えがありました。ちょっと脳内タイムスリップしながら鑑賞するのをお勧めします。


 それと部屋の移動で通る廊下から見下ろせる中庭の景色もしばらく見れなくなるので、そこも要チェックです。