結構気になる展示をすることに気がついて何度か足を運んだ練馬区立美術館で、今開催中の展覧会は『本と絵画の800年 吉野石膏所蔵の貴重書と絵画コレクション』(〜4/16)です。タイトルにあるように吉野石膏株式会社が所有するコレクションで、ひとつの企業がこんなに収集をしているのはよくあるのはわかりませんが、その中から約200点!を本にまつわるものという観点から展示できるほどなのがすごいです。



 まず〝本と絵画〟ということで、とんでもなく手間のかかった美しい時祷書などが展示されていたのですが、大切に保管されていたようで色も鮮やかで何百年も経っているとは思えませんでした。特権階級にしか手にすることがなく、読める人も限られていた狭い本の世界が、木版の技術やグーテンベルグによる活版印刷の普及で広がっていったという流れを実際の本や道具で知ることができる面白い展示構成でした。


 ちょっと嬉しかったのは、これまで展示されているのを見るだけだった〝羊皮紙〟を実際に触ることができたことです。羊だけでなく山羊や仔牛でも造られたというのも初めて知りました。とても薄くて柔らかく紙とはまた違う手触りでした。当然コストが掛かるからか、文字はとにかく細かかったですが美しい書体でびっしりと文字と装飾で構成されているのは見飽きません。それにしても文字の書かれた浮世絵もそうでしたが、文字はどちらも驚くほど小さくて、昔の人は目がよかったのですね。


 木版画の技術が普及していく説明で、フランスの印象派の画家カミーユ・ピサロの息子リュシアンが英国の多色刷り木版の絵本に魅了され、理想の本作りに取り組んでいたとか、壁紙に木版を使っていたウィリアム・モリスも実は出版活動をしていたというのもわかりました。モリスはワーグナーの『ニーべリングの指輪』の着想元になった古代アイルランドの王族の栄枯盛衰の物語『ヴォルスンガ・サガ』を自ら英訳して出版をめざしていたのに完成前になくなってしまったそうです。その本の挿絵がバーン・ジョーンズだとか、好きな画家たちがこういう仕事でもいろいろ絡んでいたの知ることもできました。


 英国で流行した木版による色つき挿絵の絵本のひとつにケイト・グリーナウェイの作品がありますが、私も1冊だけ持っています。


 日本関連のコーナーでは子どものための塗り絵本の原画を名だたる巨匠が手掛けていたとか、画家や周りの人たちによる働きかけがあっていろいろ生み出されたというのもわかりました。


 ほかにはピカソ、マティス、ゴッホ、伊藤若冲、横山大観、渡辺省亭、鏑木清方、梅原龍三郎、小磯良平など知っていると通っぽくなれる画家の作品もたくさん展示されていて見応えたっぷり。事前予約なし。しかも空いています。