演劇の新しい形として、今チケットを取るのが最も困難な大人気の劇場が360度シアター、IHIステージアラウンド東京。


 円形のステージといえば、今はない青山劇場とか、日本武道館のアリーナの中心に円形ステージを設置したコンサートで体験したことがありますが、客席はステージを取り囲む形です。ところが、そこは逆に客席の周りに舞台があるステージアラウンドシステムというもので、しかも客席が回る仕掛けになっています。回り舞台ではなく、まるで遊園地のようです。


 上演された演目の中で、特に「髑髏城の七人」のシリーズは話題になっていました。この演目を映画館のスクリーンで観られるのが「ゲキ×シネ」です。これも公開日は限定されますが、チケットはずっと取りやすいし、値段もお手頃の2000円。とはいえ、出演者によっては、あっという間に席が埋まるので油断できません。しかしながら、カメラワークで見せ場を常に追っているので、お目当ての役者が傍にいると映らないということもありますが、有料放送で放映されたのより、ずっとセリフが聴き取れて、音の迫力が全然違うそうです。



 上演時間は約4時間で途中休憩15分の長丁場なので覚悟して臨んだのが『劇団☆新感線 髑髏城の七人 season月』〈上弦の月〉〈下弦の月〉の2回。同じ演目で役者が全部違います。予想以上に、この特殊な舞台装置の魅力を楽しめるものでした。


 昨今の優れた映像・音響効果が見事に融合していました。幕に映し出されるのは、単なる平面的な森や城壁、扉というだけでなく、奥行きを感じられたり、上下に動くように見える空間が現れます。その向こうのセットは黒子によるセット替えもなく、動かさないのでしっかりとした造りになっています。次々と変わる背景はまるで映画を観ているようです。そこに生身の役者さんが、流れるようなセリフを淀みなく発しながら立ち回り、また迫力の殺陣が繰り広げられます。コミカルなシーンも織り交ぜられ、歌にダンスまでありました。


 内容は織田信長の死後の乱世に関東で暴虐の限りを尽くす髑髏党と彼らと因縁ある者たちの争いを描いています。


 ミュージカルとも新劇とも違う、観る側も彼らの疾走していく姿についていくのもやっとになります。しかし、多くの登場人物それぞれに見せ場があり、次第に明らかになっていく過去と人々の関係性から目が離せず、最後まで惹きつけられました。観終わった時には、よくこんな複雑な話をと思わずにいられません。


 殺陣のシーンなど、刀のぶつかり合う効果音が、見事に合って、映像・音響の一体感が映画にはないライブ感を盛り上げています。下手すると実際の劇場では席によっては見えないこともあるようで、この「ゲキ×シネ」のほうが、グッと入り込めるかもしれません。とはいえ、役者さんが目の前で演じている迫力は実際に劇場に足を運んでこそ味わえる醍醐味です。いつか、その世界に入ってみたいものです。