以前の展覧会でちょっと不気味な怖さを感じる女性の絵で注目を集めた甲斐荘楠音(かいのそう ただおと)の作品展が、東京ステーションギャラリーで『甲斐荘楠音の全貌 絵画、演劇、映画を越境する個性』(〜8/27)として開催されています。
怖いもの見たさというのもありましたが、彼についてもわかると思い行ってみると実は後半生は映画業界で活躍したとはびっくりしました。てっきり大正時代に活躍して早くに亡くなったため、後の人に伝わることなく近年再評価された人なのだろうと勝手に思っていました。会場にはあの独特の雰囲気の女性像だけではなく多くのスケッチなどもありましたが、写真を撮ってそれをもとに制作していたというのはこの時代ではかなり新しいことだったようです。
それにしても写真が普及していた時代という認識がなかったうえに本人自らがポーズをとってモデルになっていたとか、亡くなったのが1978(昭和53)年で結構現代まで生きていたのかと作品以外で驚くことが多かったです。
日本画家として大正から昭和に活動していたのが、恩師である村上華岳が画壇を離れたことと陰湿な人間関係に嫌気が差して1940年頃に映画界へ転身したそうです。
女形として素人歌舞伎の舞台に立ったこともあった彼は衣装・風俗考証家として時代劇映画の黄金期を支えたそうで、会場の後半には『旗本退屈男』シリーズの衣装がずらりと並んでいました。アカデミー賞の衣装デザイン賞にノミネートされた『雨月物語』の衣装も手掛けたそう。ノミネートされるとちゃんと〝アカデミー賞ノミネート状〟というのを贈られるのを初めて知りました。
着物の柄のデザインもして、人物設定画も細かく描かれていました。自身も芝居好きであったからこそ、時代劇映画の名監督たちから信頼されて、衣装に力をもらえると役者からも支持されたのでしょう。きれいに残されていてすばらしかったです。
絵のほうは妖しい雰囲気ばかりでなく、スケッチでも人物の肌の弾力や柔らかさが感じられて見応えがありました。ダヴィンチに傾倒していたそうで、たぶんミケランジェロの影響も受けていると思われる未完成の屏風絵も迫力がありました。
こうして展覧会に足を運ぶといろいろわかってとても面白いなと改めて思いました。
ここはチケットは券売機で購入しますが、受付で絵入りのチケットを渡してくれます。何種類かあってどれがもらえるかはお楽しみです。