デヴィッド・ホックニーがフォトコラージュ作品を発表していた頃、学生だった私はその制作意図なんてまるで考えずに単純に面白いなと思って真似したことがありますが、かなりのサイズを必要としたので、撮った写真を組み合わせるのは大変だったという思い出があります。
その彼の〝27年ぶりとなる待望の大型個展〟『デイヴィッド・ホックニー展』(〜11/5)が、最寄りの駅である清澄白河駅から歩くと結構距離があって、観に行くのをいつもちょっと躊躇してしまう東京都現代美術館で開催されています。
これが思っていた以上に人気で『クリスチャン・ディオール展』ほどではないですが、当日券を買うのに10分くらい並びました。さまざまな世代、そして国籍の人たちが訪れていて賑わっていました。会場に行くまでもう亡くなっていると勝手に思っていましたが存命で、しかも86歳の現役でした。
考えてみたら彼の作品をこうしてまとめて観るのは初めてで、全体的に明るいその色調からてっきりアメリカ人だと思っていましたが英国人でした。確かにアメリカに住んでいたこともありますが、どこか生まれ育った環境が作品に影響すると思い込んで、あの色彩感覚は島国でなく大陸の人のものだと決めつけていたのかもしれません。
最初に展示されていたのがコロナ真っ最中の2020年に描かれた黄色い水仙。近くにはずっと以前に描かれた水仙がありました。欧州では春を告げる花ということでこのコロナが蔓延する世界にもいつか明るい時が訪れるのを示したのでしょう。とても80歳超えた人が描いたようには思えませんでした。何より驚いたのが70歳過ぎてiPadで制作したということ。もちろん若い時からいろいろな方法を試みていたそうなので、常にチャレンジするアーティストなら不思議ではないですが、90メートルにもなる作品《ノルマンディーの12か月 2020-2021年》なんて、こんな作品を制作する発想と描きあげる体力にただ驚くしかなかったです。これらをどういう描き進めていくのかわかる展示もあって、みんな見入っていました。
もちろん絵筆を使った作品もありました。《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》(2007年)はいくつものカンバスに風景を描いてパズルのように並べているのですが、アトリエに全部を並べることができないくらい大きな作品で、ビデオで製作過程のシーンを見るとさらにその精力的な活動にも驚きました。フォト・ドローイングというのも面白かったです。
独特の明るい色調を眺めるだけで、こちらの気分も晴れるような展示でした。