印刷に関わる仕事をしていますが飯田橋にある印刷博物館に行ってみたら、これまで思ってもみなかった視点から歴史を見るという体験ができる展示を堪能できました。ここの常設展はとても広いスペースにわかりやすく、後半ゲームもあって時間に余裕を持って行ったほうがいいところでした。
印刷技術は教科書で習ったグーテンベルクの活版印刷術の発明から始まっていると思っていましたが、ここで〝印刷〟の歴史の古さとそれによって世界が変わっていたのを知ることができます。
まず入ってすぐの廊下にずらりと並べられた展示物は人類が人々に何かを伝えてきた痕跡でした。石に掘られていた文章をより多くの人の目にとまるようにしていったのですね。紙に印刷するようになって格段に知識が拡散されて行ったわけですが、いろいろな物語が垣間見えておもしろいです。
部屋に入って最初に展示されていたのは「百万塔陀羅尼経」。日本の奈良時代(8世紀中葉)につくられた現存する印刷物としては世界最古のものだそうです。仏教でもキリスト教でも宗教は広めていかなければいけないという使命があるので、手軽な印刷物というのは彼らには戦略的に必要なものだったわけです。
世界に関してのものから、そして日本を舞台にした印刷の変遷を見ていくと思ってもいなかった歴史の裏側を知ることができました。グーテンベルクに先駆けて金属活字による印刷技術を確立したのは朝鮮だそうで、豊臣秀吉の朝鮮出兵はその技術を印刷工共々日本に持ち込んだそうです。そして徳川家康も印刷物を政治に大いに活用したという話はドラマには描かれていませんから驚きでした。また、勝海舟が関わった出版人たちという説明を読むと、確かにこういう裏方的な行動をしていた人たちがいたからこそ、時代は動いて変革がなされたのだなぁととても勉強になりました。てっきり幕末まであの浮世絵や瓦版に番付表などさまざまな出版物はすべて手彫りの木版のみだと思っていたので、本当に目から鱗でした。そういえば朝ドラの『らんまん』で植物図鑑を作っていた槙野万太郎は明治時代に石板印刷を使い、のちにはもっと最新の印刷技術を導入するという話もありましたから、常に最新のものを求めて進歩を遂げていく人々がいつの時代にも日本中にいたのでしょう。
紙媒体は衰退している昨今ですが、こうして歴史をみていくと紙などに印刷することをそう簡単になくしてしまうのはどうかなと思いました。手にとる紙などの感触も大事な気がします。
全部見終わって部屋を出るとそこには印刷体験ができる工房があり、これはいつかやってみたいなと思いました。
ちょっとしたクイズもあり、500円の入場料で2時間以上楽しめました。
今特別展『明治のメディア王 小川一眞と写真製版』(〜2024/2/12)も一画で開催中。これも日本での写真の歴史がわかって興味深いものでした。新し物好きがいつの時代もいてくれるおかげで、技術が向上していくのだなつくづく思いました。