団地で飼えるペットは限られていて、犬猫はNG。でも、小鳥や金魚はOKでした。まず近所にペットショップなんてしゃれた店はなかったので、子どもの頃は普段出歩けない夜の夏の盆踊り会場に並ぶ屋台の金魚すくいで手に入れますが、美しかった赤い小さな魚は持ち帰ってみるとやっぱり何の変哲もないただの金魚でしたが、よそのうちの水槽で長い尾をひらひらとさせながら悠然と泳ぐ15㎝くらいの赤い魚が実はあの縁日の金魚だと知ったとき、小さいままだと思っていたのでこんなに育つなんて信じられませんでした。自分の金魚はあっという間に死んでしまい、夏の終わりには近所の空き地にアイスの棒を立てた小さな墓を作って、翌年また懲りもせずに買いに行くという繰り返し。やがて興味の対象が移り、金魚に目がいかなくなった気がします。
金魚の記憶はきれいだけれども、何だか物悲しくもありますが、それとはまったく違う思い出になるイベントが『アートアクアリウム』です。水族館とはまったく別物で、いろんな金魚が光や色に浮かび上がって、金魚的にストレスはないのかとは思いますが、たくさんの種類の金魚をユニークな水槽に入れ、音楽と光や映像で彩り、あの夏の縁日とは少し似ているけどもっと別の異空間に紛れ込んだ感覚を味わえます。
金魚をアートとして魅せるこのイベントは2007年からあちこちでやっていて、ここ数年はCOREDO室町で夏に開催され毎回大盛況でした。
以前『琳派400年記念祭 アートアクアリウム城~京都・金魚の舞~』が開催されたとき、タイミングよく京都にいたので滋賀の友人を誘って訪れた会場は二条城でした。普段入ることはできない辺りが薄暗くなってからの入場は踊りのパフォーマンスまであり、京ならではの幻想的な空間が演出されて素晴らしい時間を過ごすことができました。
今年はコロナで、日時指定になって少し人数制限かかるのかと思っていたら、何と専用施設アートアクアリウム美術館ができていたので、早速電子チケットの前売券を購入し、入場時にスマホでちゃんと表示できるかドキドキしながら行きました。さすがに広くなってゆったりと回れ、いろんな金魚を横から上から、また下から仰ぎ見るようにもなっていて面白いです。ほかに金魚が描かれた浮世絵や着物があったり、2階に上がる階段の壁には能のさまざまな装束の絵が飾られ、東海道五十三次も全点展示され、日本を強調していました。広々とした喫茶スペースに金魚グッズコーナーもありました。
ついに常設館を建てしまうなんて、他人事ながら一年中開催して大丈夫なのかとは思いますが、いわゆる〝映える〟空間を楽しみたいカップルやこのご時世遠出できない人たちにとってちょっといいかもしれません。