日本で人気のアーティストのひとりがアルフォンス・ミュシャですが、この夏開催された「みんなのミュシャ」展はサブタイトルに「ミュシャからマンガへ―線の魔術」とあるようにこれまでと少し変わったアプローチでした。
ミュシャのイラストは私の好きな少女マンガ家に多大な影響を与えていたので、当然そのマンガ作品からミュシャを知って注目するということになったわけですが、今回の展覧会はまさにそこを取り上げている今までありそうでなかった展示で、彼が別の国や時代の文学や音楽などにまで影響を与えていたというのがよくわかるおもしろい企画でした。
これまで少なくとも3回「ミュシャ展」は観に行っています。1989年の「没後50年記念 アール・ヌーヴォーの華 アルフォンス・ミュシャ展」を観たとき、彼の最大の作品群であるスラヴ叙事詩のことを知りました。以来、それまで観た商業的な作品とはまるで違う祖国の歴史を描いた20点は祖国チェコでも期間限定の公開ということだったので、まず観ることはできないと思っていました。それが全点一挙公開の展示を日本で開催するというニュースを聞いたときは、奇跡だと思いました。(日本公開後はチェコのプラハではなく、別の街で公開され、その後の公開は未定状態のようです)
とにかく超大作で全点を常設展示するのは難しいことなのだということは実物を前にしたときに納得しました。それを17年かけて、たったひとりで50歳から描き始めたというその体力と精神力には本当に驚かされました。ヨーロッパの複雑な民族紛争など、この絵の解説で教科書にはあまり載っていない歴史を少しだけ知ることもできました。でも、その意味することがわからなくても絵の前に立ったときに受けた衝撃はすごかったです。美しい色彩と暗い色調の人々のさまざまな表情が迫って来ました。それほど混んでいない日だったので、近づいたり離れたりしながら1点づつじっくりと観賞できました。
パリで偶然のチャンスから当時の大人気イラストレーターになったミュシャと、この晩年の大作に取り組んだミュシャ。ひとりの画家がさまざまな角度で紹介される展覧会をいくつか観てきたことで、好きなアーティストのいろんな面を知ることができ、時代背景や人間関係など別の発見ができる面白さがありました。たぶん、今後も「ミュシャ展」には足を運ぶことになると思います。