このコラムの第1回で取り上げた三菱一号館美術館で開催中の『1894 Visions ルドン、ロートレック展』は、開館10周年記念ということでかなり見応えがあります。当初、『1894 Visions ルドン、ロートレックとソフィ・カル展』というタイトルで、フランスを代表する現代アーティストとのコラボレーション展示の予定でしたが、コロナのため4年後に持ち越しになったそうです。「生存しているアーティストの作品が初めてここに展示されるはずだったのに残念だけど、その日まで生きていなくては」というカル氏のコメントがありました。



 三菱一号館がジョサイア・コンドル設計のオフィスビルとして建てられた明治26年という年を軸に当時の新しい芸術を生み出していた西洋と東洋のアーティストの作品で構成された内容になっています。ルノワール、モネ、セザンヌが並ぶと大抵それは〝印象派〟というくくりになりますが、三菱一号館美術館と岐阜県美術館が収蔵するロートレックやルドンを中心にし、そこに西洋美術を貪欲に吸収していた日本人たちの作品も並べられ、同時代にこういう人々が集っていたのかというのがよくわかります。



 そして、今回面白いと思ったのが作品の制作年代の表記です。例えば1789年といえばフランス革命ですが、日本はどんな時代だったかすぐには浮かばないように、ロートレックの『アリステッド・ブリュアン』が制作された1893年の日本の風景を即座に思い描くことができなかったのが、「1893年(明治26年)」と作品表示にあって、日本と関連づけられて新鮮でした。これだけでずいぶん違うものです。


 今ならここの一押し作品オディロン・ルドンの『グラン・ブーケ』も展示されています。パステルを主に使って描かれた高さ2.5mほどの大作で、いつ見てもその大きさと美しさに圧倒され、しばし魅入ってしまいます。まだ見たことのない方はこれを目当てに来るだけの価値があると思います。


 中庭では彫刻作品も数点鑑賞でき、今10月桜とつわぶきが咲いているので、のんびり鑑賞後の余韻に浸るか、Cafe 1894のレトロな空間で展覧会とのコラボメニューを楽しむのもいいかもしれません。



 2021年1月17日まで。2000円の料金には公式アプリの音声ガイドサービスが含まれていますが、WiFiはないので予めダウンロードしておくといいです。開催中なら何度も聴けるそうです。