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メガファーマ

2023/06/27 会員限定記事

言葉が動かす医薬の世界 1

連載 :

 02年8月、厚生労働省は「医薬品産業ビジョン」を発表した。これは21世紀(生命の世紀)に向けて日本の医薬品産業が採るべき方向性を提示したものである。国(厚生労働省)が医薬品産業政策の指針を明示したことは歴史的に見て画期的なことであった。ここ50年間、鉄鋼、自動車、電気、造船などと比較して、医薬品産業は国策産業として認知されて来なかったことを考えると隔世の感がある。


 医薬品産業ビジョンでは、日本の医薬品産業の将来像(10年後の姿)として、

 *メガファーマ

 *スペシャリティーファーマ

 *ジェネリックファーマ

 *OTCファーマ

 の、4カテゴリーに分け、その狙いと方向性を示した。これが10年後の国が求めている医薬品産業の新しいマップである。


 ここでは「メガファーマ」という耳慣れない用語が公式に使われた。メガとはメガシティーのように巨大を意味し、メガファーマは巨大製薬企業と直訳できる。これまで「メガファーマ」という用語は、一部の医薬評論誌に外国の大製薬企業を指す意味で使用されていただけで、他ではほとんど使われていなかった、ないしは使う必要がなかった。


 ところが、医薬品産業ビジョンが発表されて以来、医薬関係者の間ではメガファーマなる言葉が日常的に使われるようになった。


 発表当時、「厚生労働省は乱立する製薬会社の合併・再編を真剣に考えている」「日本の製薬企業は経営状況もよく社風も異なり合併などまったく考えられない」「A社とB社が合併すればメガファーマになるのではなかろうか」などと、巷でメガファーマ論が展開され、業界紙誌や一般経済誌も再編・統合の必要性を論じた。


 少なくとも、ビジョン発表当初は「メガファーマ論は理想ではあるが、日本的土壌を考えれば製薬企業の再編・統合は難しいだろう」という見方が一般的であった。にも関わらず、わずか3年も経ずしてメガファーマ創生への動きが急速に具体化してきた。


 アステラス製薬が発足、第一三共、大日本住友製薬が誕生する。今も、いくつかの再編の風評があり、医薬品産業は激変の渦中にある。合併で直ちにメガファーマになれるわけでないが、これらの動きは、少なくともメガファーマを目指したものに違いない。


 ところで、仮に「医薬品産業ビジョン」がなかったとしたら、また、そこにメガファーマへの期待が示されなかったとしたら、このような製薬企業の再編・統合が起こったであろうか。銀行や建設業のように経営行き詰まりの合併とは違い、潤沢な手元資金を持ち、経営順風の中の大企業合併である。


 3年前にメガファーマなる用語が公的に使われなかったら、今日のような状況は生まれなかったと思うし、少なくとも、こんなに早くは起こらなかっただろう。


 おそらく、製薬企業のトップ経営者は、ビジョンに盛られた「メガファーマ」なる言葉に強烈なインパクトを受けたのだろう。そして「メガファーマ」への具体的な道筋を今まで以上に真剣に考え始めたのではなかろうか。


 ここには、メガファーマという用語に対する感性と日本の医薬品産業のあるべき方向性(国際的製薬企業)に対する強い責任感を読みとることができる。


 潤沢な手元資産を持つがゆえの巨大外資からの買収を防止するための再編ではなく、メガファーマ創設の夢をかなえる強力な第一ステップとしての門出になることを祈念する。


神原秋男 著

『医薬経済』 2005年7月1日号

2023.06.27更新