<11日目/宇良-平戸海>


 角界でも1、2を争う人気の宇良は、今場所頭を下げ過ぎる取り口が多かった。トリッキーな取り口も最近は覚えられて対策を立てる力士が増え、以前のように腰が引けて出方をうかがう力士は少なくなった。平戸海は先々場所小結で10番勝ち、次代のホープに名乗りを上げたが、9月場所で7勝8敗と跳ね返され、そして今場所は平幕筆頭で大きく負け越した。回転の速い突っ張りが身上で、外連味のない、小気味いい相撲を取る。勝っても負けても手数が多く、毎場所館内を沸かすことで人気が急上昇している。


 ただ、悲しいかな、サイズがない。突っ張りの威力が足りず、それだけで重い大柄の力士を土俵の外に追いやるパワーに欠けるのだ。宇良のように、体重を増やして突っ張りの威力が増したならば、幕内上位に欠かせない力士になる。前頭の6枚目あたりまではベテラン、中堅、若手がひしめく最も層が厚いところだから、勝ち越すのも簡単ではない。


北の富士、死す


 解説者の北の富士が逝った。享年82。舞の海とともに相撲人気を盛り上げた功労者だった。現役の頃は足の長いハンサムな力士として高い人気を誇り、芸能界の有名どころと浮名を流した。名横綱の資格ともいわれる2ケタ優勝も果たした。今でも覚えているのは、ライバル玉の海急死の一報を聞いたときの表情だ。


 外出先から戻った直後だった。タクシーから降りようとした途端、大勢の報道陣に囲まれた。後部座席に座ったままの北の富士は、記者のひとりから悲報を聞かされる。一瞬茫然とする北の富士。事態が飲み込めたのか、見る見るうちにぼろぼろと涙を流し、茫然自失の表情に変わった。玉の海は小柄ながら多彩な技で安定した相撲を取り、大横綱大鵬の引退後は北玉時代が本格的に到来するかと言われていた。それだけに早すぎる死だった。



 北の富士は横綱2人を育ててからは、協会に残らず解説者の道を歩んだ。それだけに、語り口は遠慮がなかった。晩年は集中力が落ちて実況のアナウンサーと掛け合い漫才のようになり、それがまた良い味を出していた。自身は立ち合いの変化や張り手、かち上げなどを好まない正統派の力士だっただけに、白鵬の傍若無人な取り口には批判的だった。一時代を画した名力士、名解説者がひとり、またこの世を去った。合掌。(三)