色々な命名パターンがある がんの薬

 

 

【ダトロウェイ DATROWAY/Datopotamab Deruxtecan/第一三共】同剤は、抗TROP-2モノクローナル抗体(Dato)DXd(トポイソメラーゼI阻害薬であるカンプトテシンの誘導体)から成る抗体薬物複合体(ADC)。効能・効果は「効能・効果:化学療法歴のあるHR陽性かつHER2陰性の手術不能または再発乳癌」。


 日本で新たに診断される乳がん患者は約92,000人(22年)。患者の約70%を占める、HR陽性かつHER2陰性の乳がんは、標準治療(内分泌療法)でも病勢が進行するケースが多いため、新たな治療の選択肢が必要とされていた。同剤の標的に加え、患者・医療関係者にとっての「希望の道」になることへの願いを込めた販売名だ。


【イムデトラ IMDELLTRA/Tarlatamab/アムジェン】同剤は、腫瘍関連抗原〔小細胞肺癌(SCLC)細胞表面に発現するデルタ様リガンド3(DLL3)〕とT細胞表面に発現するCD3を標的とする二重特異性モノクローナル抗体(BsMab)。効能・効果は「がん化学療法後に増悪したSCLC」。


「腫瘍関連抗原DLL3を標的とするファースト・イン・クラスのBiTE分子※」を謳う免疫療法であることを端的に示す販売名だ。


BiTE(bispecific T-cell engager、二重特異性T細胞誘導):患者自身のT細胞をいずれかの腫瘍特異抗原に誘導し、T細胞の細胞傷害能を活性化することで、がん細胞を排除するように設計された免疫腫瘍療法のプラットフォーム。


【ルンスミオ LUNSUMIO/Mosunetuzumab/中外】同剤は、B細胞性腫瘍に発現するCD20およびCD3を標的とするBsMab。両者に結合することで、T細胞を活性化しCD20陽性の腫瘍細胞を傷害する。効能・効果は「再発または難治性の濾胞性リンパ腫」。


『医薬品インタビューフォーム』の説明だけでは、LUNが何に対応するかはわからないが、「足し合わせる」と「腫瘍免疫療法」が“SUMIO”の部分に反映されている。


【ライブリバント RYBREVANT/Amivantamab/ヤンセン】同剤は、ヒト上皮成長因子(EGFR)および間葉上皮移行因子(MET)に対する抗原結合部位を有するヒト型IgG1 BsMab。効能・効果は「EGFR遺伝子エクソン20挿入変異陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌(NSCLC)」または「EGFR遺伝子変異陽性の切除不能な進行・再発のNSCLC」。EGFRまたはMETシグナル伝達が活性化されたNSCLC細胞において、リガンド結合阻害作用、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を介して腫瘍増殖抑制作用を示すと考えられる。


 販売名は「抗体」のイメージYや「呼吸 BREATH」の前に、語感上「R」を加えたという。


【ラズクルーズ LAZCLUZE/Lazertinib/ヤンセン】同剤は、EGFRの細胞内活性部位を標的とした「第三世代EGFR チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)」。ライブリバントと併用し通常1日1回経口投与することで、「EGFRの細胞増殖シグナルに外側と内側から複数の経路を阻害する相加的作用が期待される」(同社)。


 販売名は、一般名Lazertinibに、inclusionから派生したCLUZを加えたというが、何を「含包する」のか、そのココロまでは記載されていない。


【カルケンス CALQUENCE/Acalabrutinib Maleate Hydrate/アストラゼネカ】同剤は、経口投与可能なブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害薬。効能・効果は「慢性リンパ性白血病(CLL)〔小リンパ球性リンパ腫(SLL)を含む〕」。21年1月にカプセル剤(アカラブルチニブ)が承認された後、消化管のpH条件に関わらず薬物が確実に全て溶出するように改善した溶解性プロファイルを持つ錠剤(同マレイン酸水和物)を開発。カプセル剤との生物学的同等性が示されたことから、同じ適応症で承認を取得した。


 販売名は、一般名Acalabrutinibと、その合成を行ったAcerta Pharma社の米国本社があるカリフォルニア州(CA)を掛けたCALに、この薬剤クラスが次世代につながっていくという思いを込めた、凝った内容だ。


 なお、BTKは、B細胞受容体(BCR)シグナル伝達の下流に位置しB細胞を活性化させるほか、ケモカイン受容体からのシグナル伝達にも関与し、B細胞の接着や遊走の制御も行っている。また、B細胞性腫瘍(CLL、SLL、マントル細胞リンパ腫など)では、BCRシグナル伝達経路が恒常的に活性化しており、BTK阻害によって抗腫瘍効果が得られる。


【タスフィゴ TASFYGO/Tasurgratinib /エーザイ】同剤は、自社創製した、経口投与可能な線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)1/2/3に対する選択的TKI。効能・効果は「がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道癌」。


 FGFRは、がん組織周囲から線維芽細胞増殖因子(FGF)を供給するほか、FGFR遺伝子異常により恒常的に活性化し、造腫瘍性の付与、転移・浸潤能の増加、薬剤耐性化等を引き起こす。また、FGFR2融合遺伝子は胆道癌のドライバー遺伝子であることが示唆されている。


 同剤は、FGFR融合タンパク等のリン酸化を阻害することで、下流のシグナル伝達分子のリン酸化をも阻害し、増殖抑制作用を示すと考えられている。


 上図下部に示した以下の4剤は、比較的シンプルな命名だが、販売名と、一般名あるいは作用が結び付きやすいというメリットはあるかもしれない。


【オータイロ Augtyro/Repotrectinib/ブリストル マイヤーズ スクイブ】同剤は、ATP競合性のROS1(ROS1融合遺伝子によりコードされる受容体チロシンキナーゼ)、TRK(トロポミオシン受容体キナーゼ)A/B/Cを選択的に阻害する経口の低分子TKI。効能・効果は「ROS1融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺癌」。


 分子量が小さく(355.37)、強固な三次元大環状構造を有し、ATP結合部位へ正確かつ強力に結合することで、既存のキナーゼ阻害剤に対し臨床で生じる様々な耐性変異による立体障害の影響を回避するという特徴があるが、販売名は簡潔に「TKIの増強」を表す。


【ブルキンザ Brukinsa/Zanubrutinib/Bei Gene】同剤は、販売名のとおり、ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬。


 効能・効果は「慢性リンパ性白血病(小リンパ球性リンパ腫を含む)」「原発性マクログロブリン血症及びリンパ形質細胞リンパ腫」。


【テブダック Tivdak/Tisotumab Vedotin/ジェンマブ】同剤は、ジェンマブの抗ヒト組織因子(TF)モノクローナル抗体に、「プロテアーゼ切断可能なリンカーを用いて微小管阻害薬モノメチルアウリスタチンE(MMAE)を共有結合させる」ファイザーの技術を応用して創製されたADC。効能・効果は「がん化学療法後に増悪した進行または再発の子宮頸癌」。


 販売名は、抗体TisotumabとペイロードVedotinの頭の部分からとったもの。


【テクベイリ TECVAYLI/Teclistamab/ヤンセン】同剤は、多発性骨髄腫細胞に発現するB細胞成熟抗原(BCMA)受容体CD3を標的とするBsMab「T細胞リダイレクト二重特異性抗体」。効能・効果は「再発または難治性の多発性骨髄腫」。販売名は、一般名を反映。